表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/318

コの字デート1


 日曜日。


 その朝。


 事後確認において午前十時くらい。


「雉ちゃん起きて!」


「週末ぐらい寝かせろぃ!」


「今日はいい天気だから布団干すの!」


「来週でいいじゃん!」


「それは先週聞いた! 今週はもう駄目!」


「ファ○リーズで妥協してください!」


「どっちにしろ軽食が出来てるんだから起きてもらわなきゃ困るの!」


 いっそ秋子を我が家から追放してホームヘルプオートマタを賃貸するべきか悩んでしまう僕だった。


 無論秋子に言ったら卒倒されるだろうから口にはしないんだけど。


「あ~う~」


 根負けしたのは僕の方。


 秋子はテキパキと布団をベランダから外気に晒してパンパンと叩く。


 君は僕のおかんか。


 いや……まぁ……炊事に掃除に洗濯にと両親を失った土井家をフォローしているためある種のおかん(に限りなく近い存在)には違いないんだけど。


 それからバタバタと家中走り回って布団のシーツを洗濯したり風呂場のカビを根絶したりと八面六臂の大活躍。


 僕はと言えば秋子にしては珍しく和食ではなかった。


 適温になっているコーヒーと牛乳とグラノーラ。


「まぁ体にはいいけどさ……」


 僕は大皿に盛られているグラノーラに牛乳をかけて、


「いただきます」


 と一拍。


 スプーンですくってグラノーラをザクザクと噛み潰す。


「雉ちゃーん」


 と遠い声が聞こえてくる。


 なんでっしゃろ。


「皿は水場につけといてね。すぐ洗うから」


 支配されてるなぁ。


 僕は秋子に。


「あーい」


 と遠い返事をしてコーヒーを飲む。


 それから量コンを起動させてブレインユビキタスネットワークに脳を接続。


 テレビ番組(というと盛大に誤解を招くのだけど)を見始める。


 日曜朝の生放送に量子が出ていた。


 名目上はニュース番組と主張されているけど、実質的にゴシップ歓談番組だ。


 故に寒いギャグやリアクションの横行するモノと堕してるけど量子にはこれくらいの空気の方が似合っているのも確かである。


「量子ちゃんは好きな人とかいないの~?」


 ニュースキャスターが朗らかに量子に質問していた。


 他の出演メンバーも和気あいあいとしている。


 おい。


 ニュースはどこ行った?


 まぁ硬派なニュース番組が視聴率を取れる時代ではないから仕方ないと言えば仕方ない。


 結局のところ、


「水は低きに流れる」


 ということなのだろう。


「え~? 好きな人ですか~?」


 怖気づいたように量子。


 僕と秋子は知っている。


 それが演技であることと、量子が誰を好きなのかを。


 が、んなことを生放送で暴露しても一銭の得にもならないどころか国家プロジェクトに甚大な被害を受けることがわかりきっているため、


「私を応援してくれるファンの人たちが私の恋人です!」


 にこやかかつ無難に質問を躱す。


「じゃあじゃあ。好きなタイプは?」


 出演者の一人……大学教授が問うてくる。


 だからニュース番組はどこ行った?


「好きなタイプですか……。そうですねぇ……」


 しばし悩むふりをした後、


「電子犯罪を起こさないぞって気持ちを持った人……ですね!」


 嘘つけ。


 いや本音を言われるよりいいんですけど。


「量子ちゃんのおかげで日本は平和だよね~」


 番組に出演している某男子アイドルグループのリーダー格の男性が苦笑していた。


「でもでもぉ。『人権侵害だ』って怒られることもあるんですよぅ。私も怖い目に合ってるんです」


 あざといなぁ。


 さすがアイドル。


「多分その人、後ろめたいことがあるんだよ。公明正大な人なら量子ちゃんに監視されても問題ないわけだし」


「ですよね~。最近の電子ドラッグ服用者に直接言われたんですよ。でもでも監視して電子ドラッグの服用を止めたのに怒られるって理不尽なんです。私、泣きたい気分なんですよ~」


 まぁ日本だけじゃなく今じゃ世界中が管理社会と化しているからどうしても犯罪は根の深い所に隠れなきゃならないんだけどさ。


「雉ちゃん?」


 秋子がエプロン姿で腕の裾をまくって僕に問うてきた。


「ああ、ごめん。ニュース観ててね。何?」


「コーヒーのおかわりは……って」


 気づけばカップの中のコーヒーは干されていた。


「おかわり頂戴」


「うん」


 秋子は嬉しそうだ。


 犬の耳と犬の尻尾がピコピコパタパタ動くのが幻視出来る。


「そう言えば昼食はどうする? 何か食べたいものある?」


「じゃあ寿司」


「私には無理だよぅ」


「量子質量変換でいいでしょ」


「散財するのもよりけりだよぅ」


「節税対策の一環ってことで。たまには接待費用に使わないとネットマネーは存在するだけで課税対象になっちゃうから」


 こういうところは管理社会のデメリットだ。


 もっとも要するに課税されないように稼がなければ済む話でもあるんだけど。


 どうしても仕事の方がやってくる。


 業が深いなぁ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ