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墨洲の提案3


 一応量子によって警戒を解いた僕と秋子はアドレスの先へと飛んだ。


 プライベートルームであることは前提なのでアバターを必要とする。


 僕は白髪赤眼の美少年。


 秋子は青髪青眼の美少女。


 どちらもオドから流用しているアバターである。


 時間は二十一時ちょうど。


 プライベートルームには二人……というか二つのアバターがいた。


 一人は赤い長髪に赤い瞳の巨乳美少女。


 それだけで誰だかわかる。


 信濃夏美だ。


 ミツナとしてのアバターをこちらもまた流用しているらしい。


 まぁ同様の僕にケチのつけようもないんだけど。


 僕こと土井春雉。


 紺青秋子。


 信濃夏美。


 それから四人目がいた。


 金髪碧眼の美少年アバター。


 誰?


 そう思ってはいたけどメモ用紙を配った人物だろうことは予想できた。


「夏美も呼ばれたの?」


 僕は赤いロングヘアーのアバターに声をかける。


「はい」


 頷いて、


「春雉と秋子も?」


 問い返される。


「だね」


「だよ」


 僕らも肯定する。


 それから金髪碧眼の美少年アバターへと視線をやる。


「とりあえず」


 と金髪碧眼アバターが言う。


「挨拶しよう」


 慇懃に一礼。


「墨洲総一郎って言う者だ。君たちのクラスメイトだよ」


 …………。


 ………………。


 ……………………。


 …………………………はい?


「こうやって話すのは初めてだな。土井くん。紺青さん。信濃さん」


 まさかの重要人物登場に面食らってしまう。


 いや、まぁ、僕と秋子と夏美を呼んでいる時点で瀬野三の生徒であることは明白なのだけどピンポイントに問題となる人物が関わるとは想像だにしない。


 それは秋子や夏美も同意見らしい。


 特に夏美の衝撃は相当だろう。


 想い人が目の前にいるのだから。


 まして呼び出されたのだから。


 墨洲くんが言を紡ぐ。


「あれ? 何か固まってないか?」


 さもあろう。


 夏美の最終目標が目の前にいるのだから狼狽して同然だ。


「墨洲くん」


 僕がようよう言を紡ぐ。


「総一郎でいいぞ。俺もお前を春雉と呼ぶ」


「じゃあ総一郎」


「何?」


「何を以て僕らを此処に呼んだの?」


「ちょっと提案があってな」


 提案?


 怪訝そうな顔をする僕に、


「春雉。紺青さん。信濃さん」


「秋子で構わないよ?」


「夏美で構いません」


「そう?」


 総一郎は遠慮がちだったけど案外簡単に意に沿った。


「じゃあ改めて」


 コホンと一息。


「春雉。秋子さん。夏美さん」


「何?」


「何だよ?」


「何でしょう?」


 異口同義に僕らは尋ねる。


「君たちはオーバードライブオンラインをプレイしてるんだよな?」


 はあ。


 ぼんやりと僕。


「なら一緒にプレイしないか?」


 …………。


「…………」


 この沈黙は相当のものだったろう。


「なにゆえ?」


 これは秋子。


「オドをプレイしている者同士仲良くなれるかなって」


 総一郎はそう言った。


 おそらく先日オドの会話を聞いて湯呑を割ったことに起因しているのだろう。


「俺もオドプレイヤーだからさ」


「しかしてちょっと待って」


 僕が遮る。


「総一郎は一回夏美を袖にしなかった?」


 夏美の頭をポンポンと叩きながら僕。


「あれはちょっと事情があって。今の俺なら大丈夫だから」


「そなの?」


「そなの」


 コックリと総一郎は頷く。


「どうかな秋子さん?」


「私に決定権はないよ」


 そして秋子はチラと僕を見る。


「まぁ一緒にプレイする程度なら問題はないけどね」


 僕は肩をすくめた。


 元から総一郎に取り入るために夏美をオドで鍛えていたのだ。


 これを機に夏美が総一郎と近づいてくれるのならそれに越したことはない。


 総一郎の真意が那辺にあるのかはわからないけども。


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