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墨洲の提案2


「ふわ~……」


 今日の夕餉は湯豆腐だった。


 出汁に豆腐が浸かっており、良い匂いを僕の家のダイニングに充満させている。


 白菜と人参と椎茸とえのきが鍋を賑わせている。


 無論、作ったのは秋子。


 毎度ながら胃袋を支配されている僕。


 で、


「いただきます」


 と食事を開始。


 秋子が湯豆腐をよそって僕に差し出す。


「ありがと」


 それから濃いめの出汁をかけて湯豆腐を堪能する。


「美味しい?」


「美味しい」


 一切の妥協をしない秋子に返礼は簡素で十分だ。


「ならよかった」


 ニコニコ。


 秋子は単純だ。


 状況は複雑怪奇だけどね。


 そして鍋を囲って僕らは疑問を口にする。


「雉ちゃん……あのメモ用紙なんだろね?」


「さぁてねぇ……」


「危ない……かな……?」


「あー……」


 まぁ可能性が無いわけじゃないけどゴッドアイの監視のある中でわざわざ証拠を残す意味はわかんにゃい。


 そう言うと、


「だよね」


 秋子も不審ながら納得した。


「万が一もあるから一応保険はかけておこうか」


「どうやって?」


 首を傾げる秋子。


 そりゃまぁ電子犯罪を許さない人に決まっている。


 僕は量コンを操作して意識から登録している意識にコンタクトを取る。


「はいはーい」


 次の瞬間、我が家の投影機が立体映像を映し出した。


 黒髪ツインテールの美少女アバター。


「どったの雉ちゃん?」


 電子アイドル大日本量子ちゃんである。


「ちょっとお願いがあって」


「お願い一つにつきキス一回ね」


「…………」


 秋子がジト目になった。


 こらえて。


 アイトゥーアイ。


 何とか黙認してもらう。


「で? 何の用?」


「ちょっとこのアドレスの……」


 と僕は放課後に見つけたメモ用紙を差し出す。


「プライベートルームの安全性を確認してもらえない?」


「うん。大丈夫だよ。特に不備や害意は無いね」


 即答である。


 僕にアドレスを提示された瞬間に仕事を終えたらしい。


 まぁそうでなくては本来の仕事なんて務まらないだろう。


「ありがと」


 ちなみに呼び出し時間までバレている。


 メモ用紙を見せたのだから当たり前だけど。


「じゃあ雉ちゃん、キスしよ?」


「あいあい」


 それくらいならお安い御用だ。


「雉ちゃん……」


 秋子は不満らしい。


 気持ちはわかる。


 実際はわかんないけど予想は立つ。


 で、僕はと言えば、


「ん……」


 さらっと量子とキスをして、


「お代わり」


 食器を秋子に差し出すのだった。


「雉ちゃん……」


「わかってる」


「本当に?」


「秋子の湯豆腐美味しいし、キスで納得してくれるなら安いモノだよ」


「あう……」


 紅潮しながら秋子は湯豆腐をよそって返してくれる。


「秋子ちゃん……雉ちゃんのお嫁さんみたい」


「それが理想です」


 まぁ別に理想を持つのは悪い事じゃないけどね。


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