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フラグ交差点4


 瀬野三での正午。


 即ち昼休み。


「二人ともレベル20か……」


 感慨深げに僕は言う。


「何の話?」


 ってオーバードライブオンラインの話だ。


 僕はしじみのお吸い物を飲みながら現状把握。


 元より僕たちは三人(量子を例外として……だけど)でオドをプレイしている。


 である以上秋子と夏美のアバターが並行して同一のレベルになるのは必然だった。


「そうだ」


 とこれは夏美。


 何でっしゃろ?


「スキルポイントの割り振りがわかんないんですよ」


「適当に操作して決めればいいじゃん」


「どのスキルがお勧めです?」


「何とも言えないなぁ……」


 ポヤッと。


 心底本音でもあるんだけど。


「そもそも後衛職に明るくないからね」


 僕自身のアバター……ハイドはシーフだ。


 短刀で以て敵を切り裂く近接型。


 まぁ攻撃と同時に相手の所有アイテムを盗んだりするのが得意ではあり、それ故に収入の一部となっているんだけど。


 秋子はウィザード。


 つまり魔法使い。


 夏美はガンリアー。


 つまり銃使い。


 どちらも僕の認識外だ。


 やってできないことは無いだろうけど、


「なんだかね」


 というのが本心。


 さてさて、


「超過疾走システムは獲得したんだし……」


 鮒寿司を食べながら僕は言う。


「もう一度墨洲くんにアタックしてみたら?」


「大丈夫でしょうか?」


 上目遣いで問うてくる夏美。


「知らん」


 けんもほろろ。


 しょうがないだろう。


 僕は恋愛に関しては仙人でもなければ伯爵でもない。


 秋子の好意は自認してるけど、


「だから何だ」


 が僕のスタンス。


 うん。


 まぁ。


 ちょっと心が揺れるのはしょうがないけど。


 でも秋子のためにもそれは言えない。


 そんなわけで他者の恋愛事情に付き合うほど趣味の悪い人間でもないのだ。


「雉ちゃん淡白」


 ヒョコヒョコとポニーテールを揺らしながら秋子。


「しょーがにゃー」


 と僕。


「とにかく」


 とこれは秋子。


「オドのプレイをこれからも続けるってことですよね?」


「だろうね」


 僕がそう言うと、




 ガッシャン。




 と陶器の割れる音が響いた。


 僕は怪訝な表情で音の先を見る。


 そこには一人に男子生徒。


 墨洲くん改め墨洲総一郎くんがいた。


 湯呑は量子質量変換で得たモノだろう。


 中身の茶をこぼして陶器が割れていた。


 ギギギと錆びついたロボット関節の様に僕と秋子と夏美の方を向いて、


「…………」


 瞳孔を開く墨洲くん。


「大丈夫?」


 僕の案じも相当のモノだったろう。


「ああ、大丈夫……」


 墨洲くんはそう言って雑巾でこぼした茶を拭き取り割れた陶器を片付けだす。


「手伝います……!」


 これは夏美。


 こういうところは尊敬に値する。


「信濃さん? 紺青さん? 土井さん?」


 片付けてる最中、墨洲くんが問うてきた。


「なに?」


「三人ともオーバードライブオンラインやってるの?」


「まぁね」


 平然と返しはしたけど僕は内心動揺していた。


 向こうからのアプローチは想定外だ。


 が、今となっては詮方無きこと。


「紺青さん……オドをプレイしてるの?」


「ええ。まぁ」


「ふぅん? そっか……」


 何かを思案するように墨洲くん。


 その態度が意味不明だったのか秋子はポニーテールを困惑に揺らす。


「はい。これで全部?」


 割れた陶器の破片を集めて墨洲くんに差し出す夏美。


 力になれるのが嬉しいのだろう。


 夏美は笑みさえ浮かべていた。


「ありがと」


 墨洲くんはそう言ってそこで会話を打ち切った。


 何なのだろう?


 ちょっと不安に陥る僕であった。


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