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彼氏の事情4

 水は低きに流れる。


 なんのことかといえば人間の業と自堕落さについてだ。


 ブレインアドミニストレータによって人脳を量子コンピュータに出来るのは既に常識だし、それに伴ってブレインユビキタスネットワークによる脳同士の直接的やり取りや並列化も可能であることは言うまでもない。


 ちょっと昔の人類はコンピュータやタブレットと呼ばれるインタフェースを介さなければネットの海に潜れなかったらしいけど、現在においては量子コンピュータ化した脳から直接ネットの海に潜ることが出来る。


 便利な時代に生まれたものである。


 けれども人は水と同じく低きに流れる。


 例え脳が量子コンピュータになろうとブレインユビキタスネットワークに繋がろうと、理解するのはアイデンティティに相違ない。


 五歳の子どもに、


「スパコンとネットを使っていいから万物の理論を証明しろ」


 と言っても無茶であるように、やはり情報収集演算が便利になったこの時代においても教養教育は必要なモノなのである。


 必然教育機関も廃れることなく威力を発揮する。


 量子変換やネットマネー本位性や第一種永久機関があるため人には飢えることや困窮することは無くなった今、国力に直結するのは国民の教養水準に相違ない。


 であるため僕は今日も学校に登校しなければならない。


 学校の名は瀬野第三高等学校。


 略称「瀬野三」。


 人は日の出とともに起き、日の入りとともに寝る。


 だけど僕は昨夜……オドでクエストをやっていたため眠くてしょうがない。


 どうせ授業の内容は秋子がデータに残してくれるだろう。


 寝る気満々だった。


 元より秋子はスペックが高い。


 わからないところを聞けばわかりやすく答えてくれる。


 第二の教師と云うわけだ。


 とまれ、


「えへへ。雉ちゃん」


 第二の教師はご機嫌だった。


 何故か?


 僕の腕に抱き付いているからです。


 巨乳っ子だ。


 ムニュウと腕に押し付けられる感触は癒されるけど……何だかな。


 趣味が悪いにもほどがある。


 元が残念な子なのは重々承知しているんだけど。


 秋子は瀬野三でも容姿やスタイルだけなら上の方に入る。


 慕情を向けられることもひっきりなしだ。


 そんな子を連れて歩けばやっかみの視線から逃れられないのもまた必至で。


 僕のせいじゃない所がまたね。


 いいんだけどさ。


 早く僕離れをさせなきゃいけないのはわかってるけどずるずるとここまで引っ張られているのもしょうがないことだったろう。


 さて、


「なんだかなぁ」


 僕は秋子を引っ張って瀬野三に着く。


 門を経由して昇降口へ。


 上履きを取り出す僕と秋子。


「ふややっ」


 と秋子が狼狽した。


「…………」


 言われんでもわかっちゃう。


「雉ちゃん……」


 秋子は靴箱にあった封筒を取り出して僕に見せた。


「紙媒体とはまた古風だね」


 苦笑してしまう。


 懸想文。


 そう呼ばれる物だろう。


 それくらいはわかる。


 秋子は黒髪ロングの日本美女。


 その貌は美貌と言ってよく。


 なお胸が大きく。


 人当たりも良い。


 ある点を除けば大和撫子と呼んで差し支えないだろう。


「どうしよう」


 どうもこうも無いと思うんだけど。


「私には雉ちゃんがいるのに……」


「ならそう言えばいいじゃん」


 ぶっきらぼうに僕は言った。


「言っていいの?」


「秋子の問題でしょ?」


「むぅ」


 素っ気ない態度がお気に召さなかったらしい。


 知ったこっちゃないけど。


「付き合ってくれる?」


「まぁ君が言うのなら」


 今更だ。


 正直なところ、


「もう慣れた」


 秋子が魅力的だと思うのはしょうがないことだろう。


 僕にはとんと理解できないけど。


「試しに誰かと付き合ってみれば?」


「雉ちゃんでもいい?」


「僕以外で」


「むぅ」


 やはりお気に召さないらしい。


 ジト目の秋子に僕は肩をすくめる。


 他にどうしろと。


 秋子の心情も秋子に憧れる人間も、僕の認識の埒外だ。


「雉ちゃんは酷いよ」


「知ってる」


 簡潔に肯定する。


「見限ってくれて構わんよ?」


「それを私に言わせるの?」


「然りだぁね」


 苦笑した。


 他に対処法を知らなかった。


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