とある日6
「ねぇ……」
「なぁに? 雉ちゃん……」
「本当に一緒に寝るの?」
「駄目?」
「とはいわないけどさ」
「親の認可も得てるよ?」
「まぁおじさんおばさんにしてみれば気持ちはわからないでもないけどさ」
何のことかと言えば要するに、
「僕の家に秋子が一泊して……さらに一緒のベッドで寝る」
というわけだ。
正気か紺青家。
それでいいのか紺青家。
まぁいいんだろうけど。
ベッドの上。
僕の腕に抱き付いている秋子は幸せそうだ。
フニュンとした秋子の大きな胸の感触で腕が幸せ。
「夕食作ってあげたんだからこれくらいの役得はいいでしょ?」
それを言われると痛いなぁ。
「じゃ、行くよ」
「うん」
僕と秋子は目を閉じると電子世界にダイブした。
マイルームからハイドを選択し指定のアドレスへ。
場所は妖精郷。
花と妖精で溢れるファンタジーなエリアだ。
デートスポットにも最適。
既にブレインユビキタスネットワークを介して夏美とは連絡をとってある。
故に合流は簡単だった。
ミツナは指示通り妖精郷の入口にて待機していた。
「おまた」
と僕が気さくに声をかける。
「時間通りですね」
「そうでないよりはいいでしょ?」
「ですね」
ミツナは納得して首を振る。
縦に。
「ではクエストフィールドに行きますか?」
「いやぁ。妖精郷のクエストフィールドはコキアやミツナにはまだ早い」
レベル40相当の実力が必要となる。
対応に関しては超過疾走システムがあるから問題は無いにしても……攻撃面で考えるならば火力不足だ。
「では何故ここに?」
至極真っ当な疑問だろう。
「そろそろかな?」
僕はイメージウィンドウの時間を見て言う。
そして、
「おまた!」
黒髪ツインテールの美少女が現れた。
着ているのはシルクの様に光沢のある白をメインとして赤いラインがそこかしこに奔った宗教的なローブである。
大日本量子……オーバードライブオンラインでのアバター名はシリョー……の登場である。
「遅かったねシリョー」
「ちょっとメインシステムが大量検挙してね。一応サブとはいえ私が大日本量子なんだから動かないわけにもいかないし」
「なぁる」
僕は頷いた。
絶句したのはミツナだ。
「え? 量子? 大日本量子? あの量子ちゃん?」
シリョーを指差しながら。
シリョーはミツナにウィンクをしてみせると、
「電子犯罪ダメ、ゼッタイ! あなたと正義の味方! 大日本量子ちゃんだぞ?」
バキューンと指鉄砲を撃つ。
「本物?」
「このデータ世界に本当の本物なんて概念はあるのかな?」
それは哲学だね。
「とりもなおさず大日本量子ちゃんです。ばらされると面倒になるから此処ではシリョーって呼んで?」
「シリョー?」
「オッケー。ミツナちゃん」
そんなこんなでミツナとシリョーが友誼を深めていた。
ジト目になったのはコキアだ。
青い瞳が僕を射抜く。
君は事情を知っているでしょ。
「とにかく喫茶店に行かない? そこで駄弁ろうよ」
中略。
妖精郷の喫茶店にて一服する僕たちだった。
外の景色は花が満開で妖精が飛び回っている。
デートスポットとして有名な場所であるから恋人同士の語らいも珍しくはない。
「やっぱり雉ちゃん……外に女を作ってたね?」
内に作った覚えもないけどね。
「ミツナは別問題」
ミツナが一緒に居る理由を事細かに説明してやる。
「ふぅん? じゃあその好きな人……墨洲総一郎くんに近づくために?」
「です」
多少たじろぎながらミツナ。
紅茶を一口。
「なら問題ないか」
ホケッとシリョー。
納得してくれたようである。
「でもミツナちゃん……現実でも可愛いね」
おそらく信濃夏美のデータを参照したのだろう。
この辺り大日本量子は特別だ。
「不正アクセスだよ?」
「今更……」
デスヨネー。




