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とある日5


「ただいま」


「お邪魔します」


「おっじゃまっしまーす!」


 三者三様に言って僕の家に上がり込む。


 ちなみに日はもう暮れている。


 僕は秋子の淹れてくれた茶を飲みながらリビングでくつろぐ。


 秋子は既に我が家に常備している(文句を言っているわけではない。念のため)エプロンを纏って、


「じゃあ夕食作っちゃうね」


 そう言ってくれた。


「あいあい」


 ちなみに今日の夕食は豚汁だ。


 タンパク質と野菜が大量にとれて、なお温まり、なお胃に優しいメニューと云えよう。


 日本食は至高である。


 そんな僕の意見はともあれ秋子の作る料理は美味しいの一言に尽きる。


 可愛くて謙虚で一途で家事万能。


 なんだこのパーフェクト超人は。


 対する僕は何も手伝わずダラダラとリビングで茶を飲む。


 ルール無用の残虐ファイターだ。


「きーじちゃん?」


 これは量子のもの。


 さすがに天下のゴッドアイシステムも民家への不法侵入は出来ないため量子は家に取りつけている投影機で立体映像を映すのだった。


「なに? 量子」


「好きよ?」


「僕も」


「だよね」


「だわさ」


「電子世界に行かない? そこなら色々できるよ?」


「こら」


 ペチとはたく。


 システム干渉で量子のクオリアに直接情報を送り込んで仮想体験。


「アイドルの自覚を持って」


「偶像主義は好きじゃないな」


 此奴……根本からアイドルを否定したよ……。


「とにかくダーメ」


 僕はイメージウィンドウを指で操作してニュースを見る。


 が量子は纏わりついてきた。


「私といいことしよ~よ~」


「却下」


「満足させてあげられるよ?」


「ファンに言ったら喜ばれるよ?」


「雉ちゃんにしか言わないの!」


「恐縮です」


「あ~う~……」


 ていうかさ。


「そろそろニュース番組の時間じゃない?」


 正確にはその二時間前だ。


 生放送。


 量子はコメンテーターをしていたはずだ。


「そ~だけど~」


「そろそろいかないとジャーマネに怒られるんじゃない?」


「そ~だけど~」


 何だかなぁ。


「雉ちゃん冷たい」


「恒温動物のつもりですが……」


「愛が無い」


「しょうがないでしょ」


 量子にしろ秋子にしろ立場が中途半端だ。


 ある種決定的でもあるのだけど。


「じゃあ夜にまた会お?」


「それは構わないけど場所はこっちが指定するよ?」


「なんで? 今オーディンセット集めてるんでしょ?」


「春雉に教えてもらったの?」


「うん」


 コックリ。


「ま、こっちにも色々あってね」


「むぅ……」


 ジト目になる量子。


「何さ?」


「女の匂いを感じる……」


「すごいね。立体映像が匂いを感知するなんて」


「雉ちゃんモテるからなぁ」


「そんな経験は少ないんだけど……」


 せいぜい量子と秋子くらいだろう。


 あとはまぁ気が違ったとしか思えない懸想文がチラホラ。


 ま、興味ないから一刀両断してるのさ。


「あ、マネージャーさんだ」


 催促のコールだろう。


 思念による会話だから僕には聞こえない。


 ただアーティフィシャルインテリジェンスにも例外的にクオリアが宿るこの時代。


 同一性もないではない。


 僕は否定的だけど。


 そしてそのための量子とも言える。


 実際はアイドルなんかやってるんだけど。


「じゃあ私はもう行くよ。雉ちゃん。後でね?」


「あいあい」


 ぞんざいに扱う。


「愛してるよ!」


「ミートゥー」


 ヒラヒラ~と手を振って送り出す。


 立体映像が消えて量子はここから居なくなった。


 スタジオまでは距離があるけど、データ上の存在である電子アイドルにしてみれば地球は狭いくらいだろう。


「量子ちゃんは?」


 消えた量子の行方を尋ねる秋子。


「仕事」


「そっか。もうすぐ夕食出来るからね?」


「豚汁には柚子胡椒入れてね?」


「わかってる」


 秋子が苦笑する。


 さすが。


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