充足と虚無の境界線6
とりあえずクエストをクリアしてオドを終了させる。
それからケイオスと視線を交わす。
「ゲームしてたんですか?」
「暇潰しにね」
その通りではある。
そういえばケイオスもオドはプレイしてたんだっけか。
協力プレイをした試しも無いけど。
「あらかた買ったの?」
「ええ。カタログにあるのは概ね」
奇蹟少女ミラクルひじり。
その同人誌についてだ。
私も似た様な購買理由だけど。
「先生」
「何でがしょ?」
「抱きしめて良いですか?」
「構わないわよ」
お互いアニメキャラのアバターだ。
ここでならハグ程度は別に違和感も無い。
私はとあるロボアニメのヒロイン。
ケイオスはとあるラブコメアニメのヒロイン。
それぞれのアバターであるから百合百合な感じ。
現実でもそうなんだけど。
「先生……」
また呼ばれる。
「ごめんなさい」
謝られた。
「何が?」
「先生の感情に……罪悪感を残す事……」
ギュッと抱きしめられる。
「どうしたの?」
他に問いただす術を知らない。
「今まで誤魔化してきたけど……それも限界です」
「だから何が……っ」
悲哀の言葉にツッコまざるを得ない。
「もう……限界です……」
「ケイオス……っ!」
抱き返そうとして、
「……っ?」
ケイオスがセカンドアースからログアウトした。
さすがに黙っていられない。
七糸と連絡を取って予定を無しにした後、私は電子世界をログアウトする。
目を覚ます。
現実世界への回帰。
ガバッと起き上がる。
「は……! っ……!」
ベッドに寝そべっているケイオスが苦しそうに唸っていた。
理屈を知ってはいる。
人工天才。
あらゆる天才の知識を複写された存在。
それ故に記憶能力に弊害を持つ逸材。
脳の記憶容量にオーバーフローを起こす可能性は既に聞かされていた。
「ケイオス……!」
私は苦しんでいるケイオスを抱きしめる。
「く……! は……!」
脳の記憶容量を超えるデータがケイオスを襲う。
何時死んでもおかしくない身。
それを承知で今まで付き合ったのだから。
アニメじゃない。
サブカルじゃない。
現実は現実としてケイオスの死期は存在する。
「何時か分からない」
というお為ごかしは存在しない。
現時点に於いてケイオスは死にかけているのだ。
ブルーハート財閥の使用人と連携してケイオスを病院に収納する。
来るべき時が来た。
ただそれだけ。
だがそれ以上ではあった。
「ケイオスは間もなく死ぬ」
そう医者に宣告されたのだから。
「他にやり様は無いのですか?」
縋る様に私は問うたけど、
「無理です」
帰ってきたのはそんな残酷な言葉。
仮にソフトとしてのデータを消してもソレはデータ上として『消去』というデータで上書きするだけで脳容量への負担を軽減するわけじゃない。
データの消去と圧縮はケイオスに於いては意味の無い処置なのだ。
元々のインストールしたデータが膨大なだけに。
その上で私と付き合った。
それだけの事。
それだけの事……ではあるけれど……!
「もう死ぬの?」
問うしか方法を知らない。
ケイオスを助ける方法論も……癒やす決定論も……それぞれ持ち合わせていない。
量コンにおけるデータのオーバーフロー。
私に出来るのは呼吸補助の機器で寿命を少し伸ばされているケイオスを睨み付ける程度の事だった。
「でも……何故……」
その答えは後で知る事になる。




