充足と虚無の境界線3
「で? どうでした?」
「頭大丈夫ですか?」
問いに問いで返された。
気持ちは分からんじゃないけど。
「オナニーのネタにはなるでしょ?」
「あう……」
この辺が乙女の純情さ。
男慣れしてない妃ノ守女学園の学生の不備だ。
その凡例から七糸も脱する事能わず。
「でもでも」
何でがしょ?
「いっぱいの男の人に……っていうのまで……」
「まぁ別に珍しいジャンルでは無いわよね」
色々と捗る。
実体験はしたくないけど。
そんなわけで同人誌でアレコレ。
「僕の一押しはコレ!」
と寝取られ系のひじり本の提議。
パラパラと(熟々データではあるんだけど)本を読んで、
「……っ!」
ボッと顔を赤くする七糸だった。
基本的にその辺の文化に詳しくない辺り、触れて新鮮なのは事実ではあろう。
否定の余地も無い。
「あの……先生は……」
「はいはい」
「これで自家発電を?」
「否定はしない」
元よりモブ眼鏡。
男っ気のない行き遅れ。
ついでに二次元趣味とも為れば、
「一人の夜」
はこの際必須だ。
否定した所でどうなるものでもない。
「あう……あうう……」
真っ赤になってのぼせる。
七糸にとって同人誌というのは前衛的らしい。
「こういう絵は描けないの?」
戯れに問うてみる。
「描けるか描けないかなら描けますが……」
漫画チック。
アニメッとした絵。
ヒロインの瞳とおっぱいが大きくて男の劣情の捌け口にされる。
一応デッサンが出来るのだからサブカルの絵も描けはするのだろう。
売れる同人誌は慣れの観点から創れはしないだろうけど。
「じゃあ」
とはケイオス。
「ミラクルひじりの裸婦画描いてみて!」
赤色の瞳は純粋無垢。
とりあえず嫌がらせでは無い事を七糸も理解はしていた。
「むぅ」
色々と葛藤があるらしい。
電子的なイラストを描くならばアトリエは必要ない。
「先生?」
「あいあい」
「校則に違反しないでしょうか?」
「さすがにそこまで学園が口を出す事では無いわね」
肩をすくめる。
「一種の社会勉強と思えば良いんじゃない?」
「社会勉強……」
「画家よりイラストレーターの方がサブカルに於いては需要があるし」
「そうですけど……」
「綺麗じゃ無かった?」
問う。
基本的に七糸が絵を描く理由は、
「自分が美しいと思う物を世界に投射するため」
と聞いている。
実際にハナカマキリの絵はそれを端的に現わしていた。
その上で未知のジャンルへの挑戦は、ある種の茨の道かも知れない。
「では須磨先生。脱いでください」
「なして?」
「先生の裸婦画をサブカルっぽく描いてみます」
「モデルになるのは良いけど裸はさすがに……」
こんな所に落とし穴。
「凜先生の裸婦画……」
ケイオスまで食いついてきた。
「是非!」
そう云うと思った。
嘆息。
「却下」
断じる。
「可愛い生徒の御願いです」
「教師たる者の度量が試されています」
「詭弁だ」
いいたい事はわからんじゃないけど。
「けれども指針が無いと絵を描きようがありませんし」
「…………」
まぁ一理ある。
「はぁ」
もう一度嘆息。
「分かったわよ」
諦め。
「脱いでくれるんですか?」
「私じゃないけどね」
「「?」」
首を傾げるケイオスと七糸だった。
要するに私の裸が描ければ良いのだ。
自身のすっぽんぽんをモデリングして提供。
「後は好きにして」
そんな感じ。




