充足と虚無の境界線2
「はうあ」
同人誌の熱にあてられてダウンする七糸。
とりあえずフォローは使用人に任せて私は自身のアバターを操作していた。
さすがにお盆は休みだけど、今は就業中。
アバターの須磨凜を古書館の執務室でダラダラさせている。
「教諭って大変ですね」
「まぁ色々とね」
彩の付いてない言葉に苦笑を返す。
「ケイオスも教師として来れば良かったのでは?」
「そしたらエッチしてくれましたか?」
「それは有り得ないんだけど」
「むぅ」
当人には深刻な問題の様だ。
何にせよケイオスは若すぎる。
時間が無いのは知っている。
私に惚れているのも言質は取った。
その感情の尊さ。
儚さと麗しさ。
貴び……重く……、
『貴重』
とは良く言った物。
「だいじょぶ」
私はアバターをフリーズさせて現実のケイオスを抱きしめる。
「多分ケイオスが懸念している以上に私はケイオスが好きだから」
「なら結婚してください」
「日本では無理」
「だからマサチューセッツで」
「ついでにMITに?」
「ミスインタフェースの居場所は在るのでしょう?」
そうだけど。
「何でMITの教授を断ったんです?」
「日本の方が居心地は良いからね」
肩をすくめる。
「同意はします」
ケイオスも分かってはいるらしい。
なんというか……。
島国の人間の性質なのだろうか。
色々と大陸とは明分される文化を持っている。
ついでにいえば経済が安定し、民度も高い。
夜でも物騒にならない特異な国だ。
住み心地として、これ以上は無いだろう。
なおエネルギー先進国という立場も此処に含まれる。
石油も何も無いけど第一種永久機関があるため国際的発言権も大国ですら無視できない。
その大国の一つなんだけど。
「先生と結婚したいです」
「私もね」
「…………」
「何か?」
問うてみる。
「先生は本当に僕を想ってくれるんですか?」
なるほど。
「心外だなぁ」
とりあえず誤魔化した。
「基本的にそっちのケはないですよね?」
「否定はしない」
「では何故?」
「別に性別と恋慕に相関性を求める必要もないのでは?」
「ではありますけど……」
私の好意が逆に不安らしい。
純粋な好意なんだけどなぁ……。
同情が混じってるのはしょうがないけど……金地金だって百パーセントの物は無い。
「ケイオスは私が嫌い?」
「愛しています」
「ありがと」
「敬っています」
「どうも」
「尊んでいます」
「光栄」
「惚れています」
「そ」
「先生は本当に?」
熱を感じさせないのは性分だ。
こればっかりはご勘弁願いたい
クシャッと金髪を撫でて解放。
またアバター操作。
「先生は恋した事は無いんですか?」
「今してる」
「私では無く……」
「ふむ」
考える。
「恋と云えるのかどうか……」
それが私の感想だった。
「格好いい人とか」
「私が役者不足」
「自嘲も度が過ぎれば嫌味です」
「ケイオスには魅力的に見えるの?」
「はい」
素直に頷かれる。
「光栄です」
「先生は眼鏡をとればもっとモテると思うんですけど……」
「基本的にモブ眼鏡ですから」
カタカタとアバター操作。
「むぅ」
「何か?」
「いえ……その……」
少し考える様にケイオスは言った。
「先生の魅力を世界に認めて欲しい希望と、先生の魅力を独り占めしたい独占欲が、僕の中でせめぎ合ってます」
「いい子」
ご褒美に頭を撫でてあげよう。




