絵心人知らず6
とりあえずダブルベッド。
三人で寝る事に。
私が中央で左右にケイオスと七糸。
ケイオスは全裸。
七糸はブラとショーツ姿。
私は七糸に準ずる。
クーラーを効かせて夏の暑さ対策。
「…………」
ケイオスの寝付きは良かった。
私と一緒に寝ると安心するのだろう。
その点に於いては光栄だ。
もう片方はそうでもないらしい。
「須磨先生……」
呼ばれる。
「起きてますか?」
「一応ね」
答える。
「先生はケイオスさんがお好きなんですか?」
「まぁ偏に」
「生徒なのに?」
「生徒なのに」
別に畏れ入る事でも無い。
倫理的にはアウト。
事案としてもアウト。
けれどもケイオスの純情は否定できないほど輝かしい。
「私も先生が好きなのに……」
「有り難い事だね」
皮肉のスパイスを利かせる。
ことその方面ではなんとかやっているようなそうでないような。
緩やかな闇の中では言葉も探り探りだ。
幼い少女の幻影が……けれどもたしかに見える。
「私はそんなに魅力的?」
「少なくとも私には」
「でも梅雨以前はそうでも無かったわよね?」
「あはは……」
苦笑いが透けて見えた。
眼鏡をしていないので表情までは読めないけど。
「アレは……その……」
「何?」
「違うんです」
何がよ?
「最初は嫉妬だったんです」
「嫉妬?」
七つの大罪の一角。
「プリンセスってチヤホヤされてて」
六菱七糸は元プリンセスだ。
プリンセス。
妃ノ守女学園で最も綺麗な生徒を指す言葉。
ケイオスが七糸から強奪した栄誉。
「だから」
と七糸は言葉を紡ぐ。
「ケイオスさんから須磨先生を奪えれば一泡吹かせられるかなって……ちょっと考え的にアレなんですけど……」
「なるほど」
納得。
要するに、
「ケイオスのお気に入りの須磨先生を自分の虜にすれば憂さ晴らしになる」
そんな感じなのだろう。
「プリンセスの座が惜しかったの?」
「惜しいと言うより相対的評価で貶められるのが……」
「さいでっか」
「でも今は違います」
「…………」
「須磨先生に心底惚れています」
「さいか」
「私では駄目でしょうか?」
「絵画に熱意を向けなさい」
「先生の裸婦画が描きたいです」
「悪趣味な」
心底本音だ。
「何で先生はそんなに優しいんですか?」
「そんなつもりはないけど」
「私の夢を応援してくれました」
自分の裁量で好きにしろって言っただけなんだけどな。
言っても詮無いから言わないけど。
乙女心のままならなさは……そりゃま人の春の命題で。
「好きです。須磨先生」
「ごめんなさい」
「やっぱりケイオスさんが?」
「ええ」
とても好き。
言葉では表現できないほど。
まるで呪いだ。
どうしようもない。
「失恋……ですね」
「申し訳ない」
他に言い様も無い。
「う……あ……」
私の腕をギュッと抱きしめて七糸はメソメソ泣きだした。
「最初は嫉妬だったけど……」
「うん」
「今では本当に先生が好きです」
「うん」
「大好き……! 大好き……!」
「うん」
「好きですよ……先生……!」
「ありがとう」
慈愛に満ちた声で私は言う。
「六菱の令嬢にそう云われて光栄だ」
その通りではあった。
それ以上の慕情を抱えているためどうしても断らざるをえないけど。
我ながらがっかりさせられる。
南無八幡大菩薩。




