絵心人知らず5
夕食の寿司を食べて、それから風呂の時間となった。
「凜先生」
「須磨先生」
「はいはい?」
「「一緒に入りましょう」」
言うと思った。
ケイオスと七糸が睨み合う。
モテる女は辛いなぁ。
少し現実逃避。
かなり教師としてどうなのかとか思わないでもないけど……なんにせよ馬鹿やって職を失うのはしばしば公務員はニュースになるよね?
「とりあえず却下」
そう言って私は一人で風呂に入った。
「ふい」
湯に浸かって温まる。
冬ほどの有り難みは無いけど、夏でも風呂の温かさは身に染みる。
そう言えば何で七糸は私にアプローチするのだろう?
そんなことを考えた。
「ま、いいんだけど」
結論としては其処に収束する。
別に考えるまでもない。
私の結論は出ている。
ソレをどう扱うかが肝ではあるけど。
「なんだかなぁ」
せめて、
「学園繋がり」
じゃなければもうちょっと融通が利くんだけど。
「愛してる」
言うのは簡単だ。
別に私が言わなくとも、世界の何処かで誰かが誰かに囁いているだろう。
「アイラビュー」
なんて。
摩耗した言葉。
変哲もない言葉。
使い古された言葉。
温まって風呂を出る。
裸ワイシャツで。
ガシガシと髪をタオルで拭いながら。
「須磨先生」
これは七糸。
「いつもケイオスさんと一緒にお風呂を?」
「気が向いたらね」
「私とは?」
「気が向いたらね」
「むぅ」
「僕は凜先生のおっぱい揉みました」
そんな自慢げに語る事でも無い様な。
「むぅぅ……」
その困惑を自分に向けてくださるとコッチとしても安心叶うと言いますか。
嘆息。
「ところで」
私はあえて話題を継続させる。
というか波に逆らわず聞けるのがこのタイミングだった。
「七糸は私の何処に惚れたの?」
「優しい所です」
誰への評価だ。
ソレは。
「先生は私の欲しい言葉をくれました」
慰めという観念だけど。
言って詮方なき……か。
「私が絵を描いて良いんだと言ってくれました」
「まぁ結果がどうなれ夢に生きるのは悪い事じゃないわね」
それは確かだ。
サラリーマンは何が楽しくて生きているのか?
自問自答は幾らでもした。
私自身がサラリーマンだから。
「だから先生を好きになりました」
「…………」
あれ?
そうすると……。
時間軸にブレが生じませんか?
少し考えながら使用人に髪を乾かして貰う。
モブ眼鏡ではあるけど、使用人は恭しくドライヤーで私の髪を扱う。
さほどの存在でもないのだけど。
「お嬢様」
「はいはい」
「ご入浴の準備は完了しました」
「ではその通りに」
そしてケイオスが風呂に入る。
七糸はジト目だ。
「先生はケイオスと……」
「まぁね」
そのね。
百億円貰ってる事だし。
円基軸の世界ですから。
「先生のエッチ」
「そこまではしていない」
「そう云う意味じゃ在りません」
「知ってるわよ」
サクリと答える。
その通りではあるのだ。
「そんな先生も好きです」
「何でよ?」
「乙女心にストライク」
それもどうかなぁ。
乾いた髪をガシガシと掻く私。
色んな意味で疲労する。
この世界のしがらみって奴はなんとか重さを思えるモノで。
子どもの扱いにも留意事項はある。
きっとほてりは夏の業。
ただそれでも、
「私……ね」
生徒の扱いを日常的にやっているみゃっこに賞賛を送りたい気分だった。




