絵心人知らず4
「実家には戻らないの?」
「嫌……です」
青ざめながら七糸は言う。
「自分を否定されているみたいで心が痛くなります……。こんなの……とても耐えられなくて……とても疼きます……」
「そ」
「須磨先生」
「あいあい」
「助けてください」
「相わかりました」
「いいん……ですか?」
「嫌なら豪雨にうたれてる七糸を拾ったりしない」
「面倒くさいですよ?」
「さほどでもないけどなぁ」
実際にその通りだ。
「とりあえず夏休みいっぱいはここで暮らして良いから」
「そ……ですか」
「えい」
ムニッと七糸の頬を掴んで伸ばす。
ブルドッグ。
「ひぅう?」
「遠慮は無し。私は味方だから。まぁ白州ほど頼り甲斐が在るかと言われればそれはもう否ではあるんだけど」
「あぅ」
ホロホロと泣き出す七糸だった。
「本気ですか?」
これはケイオス。
先まで場を静観していた。
その結果だろう。
七糸に優しくする事への危惧は。
まぁ恋敵ではあろうけども。
でも……けれどさ……。
「大丈夫」
クシャッと金髪を撫でる。
「別に蔑ろにはしないから」
「僕は凜先生の一番になりたいです。ナンバーワンでいたいんだよ?」
「今のところそうではあるけどね」
嘯く様に言う。
「須磨先生はケイオスさんとお付き合いを?」
「してません」
今は、まだ。
そんなわけで部屋にもう一人加わる事になる。
「お邪魔では……」
「だからそうなら拾ってない」
いい加減にして欲しい。
どっちがいい加減かならあまり負ける気もしないものだけど。
それから三人でアニメを視聴した。
寝室で。
題名は死海のリリィ。
異世界海洋ファンタジー。
「えと……」
理解をえられない輩が一名。
当然七糸。
「先生やケイオスさんはオタクなんですか?」
「だよ」
「ですよ」
特に異論も無い。
隠していたつもりは無いけど、話題にする事でも無かった。
単にそれだけ。
「えと……」
言葉を探しているらしい。
「絵が好きなんですか?」
「ある意味で」
「ある意味で」
異口同音に私とケイオス。
「二次元には夢がある」
「希望もある」
「充足もあって」
「満ち足りる」
そんな感じ。
「こういうアニメッとした感じの絵も描けた方がいいのでしょうか?」
「絵画と比べられても」
基本的に棲み分けは済んでいる。
「なんならコミマに行ってみる?」
「コミマ?」
「オタクの祭典」
「ああ、アレ……」
ソレです。
「プロのイラストレーターも参加してるから何かしら触発はされると思うけど」
まぁ、
「一口に絵と言っても四十八茶百鼠」
ではあるけど。
「イラストレーター」
そんな職業もあるのか。
自然そう思ってしまう七糸らしかった。
「みゃ」
ケイオスが鳴く。
「僕と先生でデート」
「少しは寛容を覚えなさい」
クシャリと金髪を撫でる。
「にゃ~」
フニャリと力を失うケイオスだった。
「同人誌……って奴ですよね?」
「その通り」
「むぅ」
七糸は腕を組んで難しい表情になった。
「無理はしなくて良いけどね」
「いえ。是非」
「まぁ当人が良いなら良いけど」
結局ソレに尽きるのだ。




