あなたに恋をしてみました6
夢を見た。
とりあえず日本に帰国して、それからどうしようか悩んでいた時機。
目の前に教職があったので就職。
基本的に高学歴であったためシャンシャンで通った。
妃ノ守女学園。
その司書教諭。
担当は古書館の執務。
所謂『良く言って給料泥棒』の始まり。
オドを画面プレイしながら執務室で時間を潰す毎日。
そんな折、
「須磨先生」
みゃっこが声をかけてきた。
一応先輩に当たる教師であったため、
「何でしょうか?」
と丁寧語。
「書類。とりあえず確認を」
「データで送ってください」
「ハード面も給料の内と諦めてください。此処はアメリカではなく日本です」
一応MIT出身である事は悟られていた。
「へぇへ」
と頷いて書類を受け取る。
ササッと目を通して封筒にしまう。
それからカタカタとイメージインタフェースを操作。
「何をしているんです?」
「大学から論文書けって言われてね」
超嘘つき。
本当はオドで遊んでいる。
吐露して厄介事にするのも面倒なため口を閉ざすけど。
「副業に当たるのでは?」
「固い事は言いっこ無し」
「ちゃんと働いていますか?」
みゃっこはそう問うてきた。
「給料分はね」
そんな私とみゃっこのいる執務室に繋がる廊下を女生徒二人が通過した。
「古書館……」
呆然と呟く。
別名乙女の園。
「司書教諭?」
「何でしょう?」
「性の乱れは風紀違反ですよ?」
「建前上はね」
「黙認していると?」
「別にやり玉に挙げる事も無いのでは?」
「教師ならば正しい恋愛を推奨すべきでしょう?」
「全寮制の女学園で?」
ちなみに学園領から出るには正当な理由と学校側の認可がいる。
生粋のお嬢様学校で周りが女子だらけとなれば、青春や友情が少々行きすぎても特に意外でも何でもない。
「生徒に理解ある司書教諭なもので」
オドをプレイしながら私は素っ気なく言った。
「もしかしてそっち系?」
「失敬な」
少なくとも就職した時点ではまだ朱に染まってはいなかった。
それはみゃっこも同じだったろう。
「でも理解があるのでしょう?」
「人の立場になって考える。ただそれだけ出来ればいい。言うほど簡単でも無いけどね」
もしも全人類が容易く他者の身を案じられるのなら世界は平和になっているはずだ。
「私には分かりません……」
「とりあえず誰かを好きになってみては?」
「誰かって……誰を?」
そーだなー。
「プリンセスとか?」
「生徒に手を出せと?」
「想うだけなら思想の自由が保障されてるし」
肩をすくめた。
とりあえずオドのクエストをクリアしてコンソールをシャットダウン。
量子変換でコーヒーを用意し、飲む。
「要りますか?」
「では」
みゃっこの分のコーヒーも用意する。
「でも好きになるってどうやって?」
「単純接触効果」
「?」
「ある一定の情報を間断なく受け続けると対象に好印象を覚えるという理論」
「…………」
「とまぁそんな小難しい言葉を使わないでも百回嘘ついたら本当になるの典型ですね」
「つまり?」
「ある一定の対象に狙いを定めて毎日『この人が好き』って思い込んでみては? きっと好きになるはずですから」
この時点ではみゃっこと親しくなかったため安易に、
「所詮他人の都合です」
で片付けたため、
「この人が好きって……百回……」
ジトッとこっちを見やるみゃっこの視線の意味に気づけなかった。
「別に絶対しろとは云わないけどね」
とりあえずは学校の風紀に於いて古書館が換気作用の場である事を肯定できればソレで良いのだ。
弁舌による思考の定常化は少しだけ自負がある。
「百回好きだと想う相手は誰でも良いのですか?」
「想うだけならですね」
「ふぅん?」
困惑するような肯定だった。
「何か?」
「いえ。何でもありません」
そう言ってみゃっこは会話を打ち切った。
とりあえず風紀に関する意識用意を誤魔化す事には成功したわけだ。
負債は後からやってくる。
後悔先に立たず。
そんな懐かしい夢。




