あなたに恋をしてみました4
「ほほう」
と混沌。
サクサク雑魚を狩りながら話を聞く。
「夫としてその辺どう?」
「別にゲームですし」
何かと問われれば私の恋慕についてだ。
カタカタとインタフェースの打鍵でアバター……マリンを動かしながら思念会話。
ちなみに、
「はい。先生」
ケイオスが隣でコーヒーを用意してくれた。
単純に量子変換の代物だけど。
「好きな人ね」
「混沌にはいないの?」
「いますよ」
「恋人?」
「いえ」
サクッと言う。
サクッと雑魚を切り滅ぼしながら。
私はヒールをかけて混沌のヒットポイントを回復させる。
私のアバターならソレも可能だ。
なおレベル五百とも為ればスキルのレベルも大概になる。
ジーザス。
「今のところ片想い。相手がこっちをどう思っているかは知らないけれど」
「けんもほろろではないわけ?」
「出会った頃は持て余されてる感じだけど今は優しくされてる」
「良か事良か事」
うんうんと頷く。
ヴェネチアエリアで高レベルのニクシーを滅ぼしていく。
水路の端から端へ跳びながら。
コーヒーを一口。
隣ではケイオスがチョコレートを飲んでいた。
オドのプレイはしているらしいけど、現実世界に意識を持っている以上、今はプレイしていない証拠だ。
仮に私同様にフルリンクでは無く画面プレイならイメージインタフェースの操作で不自然な指繰りを必要とする。
が、
「みゃ~」
と私にすり寄って甘えてくる辺り暇しているのだろう。
私と混沌はヴェネチアエリアを攻略していき、ボスフロアに辿り着く。
現われたのはレジェンドニクシー。
ヴェネチアエリアの高位モンスターだ。
なお超過疾走システムのアシストは五倍。
中々に苦労人である。
モンスターに捧げる言葉でも無いが。
とりあえず津波が起きた。
私と混沌は家屋の屋根に飛び移る。
高位まで水面が上がる。
コレがあるからレジェンドニクシーは憎々しい。
ゲームの仕様ではあれども。
「あ、先生」
と現実世界のケイオス。
「今忙しい」
超嘘つき。
とはいえ重々に構えて挑まねばならない敵だ。
「また女の子二人が古書館へ……」
「何時もの事だから気にしなさんな」
「注意しなくて良いんですか?」
然もあらん。
「注意して止まるならソレも良いけどね」
別に場所が変わるだけで、それ以上では無いだろう。
「給料泥棒……」
「良く言われる」
主に自分自身から。
「先生?」
「何か?」
「僕と良い事しましょう」
「ケイオスが大人に成ったらね」
「ふえ?」
ポカン。
「ふえぇ?」
ボッと顔が赤くなる。
遠回しとはいえ肯定的な返事が戻ってくるとは思わなかったのだろう。
この辺は乙女だ。
が、とりあえずはレジェンドニクシーの相手。
軽やかに打鍵。
マリンを動かす。
剣を振るう。
回復魔法をかける。
時折バフもかけたりして。
カタカタ。
「あの? 先生?」
「何か?」
「どういう意味で……?」
「さてね。解釈はお任せ」
「あう……」
私は素っ気なく言った。
あまり好き好き言うと言葉から重みがなくなる。
ある意味でツンデレというのは、もったいぶった恋愛観の好例なのではなかろうか?
そんなことを思う。
途端に混沌の動作が鈍くなった。
「大丈夫?」
「ええ。平気です」
そして私ことマリンと混沌はレジェンドニクシーを切り滅ぼすためにヴェネチアの家の屋根を飛び回りながら攻撃を加えていくのだった。
「性の乱れ」
ポツリとケイオスが呟く。
また生徒同士のカップルが古書館の利用に来たのだろう。
別にいいんですけどね。




