あなたに恋をしてみました1
夏休み。
とりあえず給料を貰うには働かざるを得ない。
そんなわけで図書館の地下。
古書館の執務室でコーヒーを飲んでいる私だった。
隣にはケイオス。
生徒は全面的に休みであるため古書館の執務室に入り浸っている。
「にゃ~」
と私にすり寄って幸せそうに微笑む。
その微笑が私の心を締め付ける。
いっそ押し倒してしまえば楽になるんだろうけど、
「教師と生徒じゃな~」
倫理的に……こう……ね?
そんな悶々とした感情を抱えていると、
「凜ちゃん」
と声が掛かった。
みゃっこだ。
こちらもまた社会に取り込まれた畜生道。
飼われる側の存在だった。
「お昼にしましょ」
溌剌と言ってくる。
「誰?」
当然ケイオスの言。
「みゃっこ先生と呼んであげてください」
「みゃっこ先生」
「何でしょう?」
「呼んだだけです」
「ですか」
ギュッと私を抱きしめるケイオス。
赤眼は嫉妬に燃えていた。
「じゃあケイオス」
私はその金色の頭を撫でる。
「にゃ?」
「昼食」
「みゃ」
そんな感じ。
三人で食堂に顔を出す。
「ブルーハートさんは実家に帰らないの?」
みゃっこが尋ねる。
言葉としては自然だけど、
「私の凜ちゃんにベタベタするな」
が本音だろう。
「肩がこりますので」
ケイオスは飄々と応えた。
「みゃっこ先生は仕事ですか?」
「大人に夏休みは存在しないのよね」
「はあ」
特に何かを意識して、では無いようだ。
「凜先生」
「はいはい」
「お盆はコミマに行きませんか?」
「言われずとも」
既に花丸がスケジュールについている。
「ひじり本を買い漁りましょう」
「そのつもり」
ミラクルひじりネタで会話を繋げる私とケイオス。
「……?」
一人みゃっこが取り残された。
「何の話?」
「みゃっこにはあまり関係ないかな?」
「酷い……」
「いや、仲間はずれにするモノでは無くて……」
「じゃあいいじゃん」
「ミラクルひじりを知らんでしょ」
「うん」
いっそ清々しい。
「ソレ関連」
「んー」
パスタをあぐあぐ。
「そのミラクルひじりって何?」
「アニメ」
「あにめ……」
ぼんやりとみゃっこ。
「あー」
とか、
「うー」
とか。
とりあえず情報を整理して、
「凜ちゃんってオタクなの?」
「ですよ?」
誰憚る事も無い。
「初めて知った新事実」
みゃっこは驚いていた。
「隠してたの?」
「そんなつもりは無いけどね」
基本的にアニメを見るのは家でだし、ゲームするのも視界モニタ。
みゃっこがそっちに興味が無いのを知っていたため話題にしても発展はしないとわかりきっていたため話さなかっただけだ。
要するに、
「都合上の問題」
であり、隠匿ではなく提議の無意味さの結果だ。
そう説明すると、
「凜ちゃんがサブカルに……」
何かを悩んでらっしゃった。
失望されるかな?
そんな事を思う。
特に不利益を被るわけでも無いけど。




