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オーバードライブオンライン  作者: 揚羽常時
『OverDriveOnlineAnother』Episode2:フォーリンカオスラブ
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人工天才5


「ある種の症状を患ってはいても病気の類ではないのです」


 そこから兵藤さんの吐露は始まった。


「でも何時死ぬともって……」


「はい。所謂ところの爆弾を抱えた……という表現が限りなく近くございます」


 爆弾を抱えた。


 無論寿命に……だろう。


「何時亡くなられるかは医者でさえ不明です」


「…………」


「本当に……お隠れになる時はあっさりとお隠れになります」


「理由を聞いても?」


「ドクターカオス」


 ケイオスの二つ名だ。


「MITのドクターにしてカオス値の開発者」


「ですね」


 とりあえずソレは知っている。


「冷静にお考えください」


「…………」


「カオス値が開発されたのが数年前」


 開発から発表まで時差があるので、あえて数年とぼかしたのだろう。


「お嬢様はまだ小学生でありました」


「だね」


「常識の上でそんなことが可能だと思いますか?」


「常識に則るなら不可能としか云えません」


 ただし何事にも例外はある。


「常識的に考えて」


 というのは例外の存在を非論理的に封殺する言葉でしかなく、実際の例外に対して失礼な言葉でもある。


「その通りではあります」


 兵藤さんもその程度は弁えているらしい。


「お嬢様が能動記憶を上手く処理できない事は知っていらっしゃいますか?」


「それはまぁ」


 特に他人を覚える事には壊滅的だ。


「天才における欠陥だと思っていたのだけど……」


「その通りではあります」


「含みのある言い方ですね」


 酒を飲む。


 桜吹雪の中……哀しげに兵藤さんは笑顔を作った。


「人工天才」


 そう言う。


「お嬢様はそう呼ばれる存在なんです」


「じんこうてんさい……」


「人工的に天才を作る。その結果としての存在ですね」


「デザイナーチルドレンならそれくらいは普遍的では?」


「無論先天的な器も用意されましたが……基本的にお嬢様の聡明さは後天的な施術の結果です」


「いまいち背景が見えてこないなぁ」


 急かすほどでも無いけど。


「天才と呼ばれる人間の知能がデータとして保存されているのは知っていますか?」


「いえ。初耳です」


「国際機密に相当しますから先生におかれても認められなくて当然です」


「はあ」


「ブレインアドミニストレータ。そが開発された過去からこれまでの偉人と呼ばれる人間のシナプスマッピングを保存しようとする試みが存在するんです」


 黒いなぁ。


「で、それとケイオスとがどんな関係を?」


「お嬢様は過去の天才たちの知識を幼少の砌より無理矢理インストールされて開発された存在です」


 ってーことは……。


「はい。何百人という天才の脳データを幾ら量コンとはいえ表層記憶に植え付けられた人工天才。それがケイオスお嬢様です」


「記憶に障害を持っているのは……」


「既にお嬢様の記憶領域が限界に達している兆候です」


 私は何も言えなかった。


「お嬢様の脳には連続的に過負荷が襲います。結果として自律神経が失調する危険性を持っており……それ故に何時心臓や肺が止まるかも分からない状況です」


「…………」


「あるいは脳がオーバーフローを起こしてハードではなくソフトとして死ぬ可能性もあります。脳には冷却器が付いていませんから」


「死ぬの……ケイオスが……?」


「わかりません。問題がソフトに偏っています故、投薬治療は元よりリハビリの類も効果が無いのです。本当に何時抱えた爆弾が炸裂するかは結果論でしか語れません」


「そこまでして天才ケイオスを作る必要がブルーハート財閥にはあるのですか?」


「人類学の業です。実際に人工天才としてお嬢様はカオス値を構築なさりました」


 無理矢理天才の知能を何百とインストールされて、その知能を以て次なる天才を作る。


 そしてそのためには記憶容量のオーバーフローすら気にしない。


 この上なく非人道的所業だ。


「処置は無いの?」


「既に為されてはいます」


「どうやって?」


「国家機密に相当するため云えません」


 でっか。


「ですが自律神経が不調をきたそうとすれば自動的にフォローする様にプログラムが組まれている事も事実」


「けれど自律神経を維持しても脳のオーバーフローは変わらないのでは?」


 むしろ生きれば生きた分だけ能動記憶も受動記憶も嵩増ししていく。


 ブレインアドミニストレータとはいえ限界はある。


「はい」


 否定してほしかったが私の懸念を真っ向から兵藤さんは肯定した。


「ですから須磨先生にはお嬢様を愛して貰いたいのです……。死ぬその日まで……お嬢様が幸せで……あります様……」


「ケイオスにとって私は何なんですか?」


「光明です。憧憬であり尊崇です。須磨先生がいらっしゃったからケイオス様は生きる喜びを知りました。幸福の概念を植え付けられました。オーバーフローし加熱するボロボロの脳の中で……それでも須磨先生との記憶だけは輝かしく思い出す事の出来るもの」


「それで他人の事は忘れても私の事は……」


「です」


 恭しく兵藤さんは一礼した。


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