人工天才4
とりあえずケイオスが戻るまで、屋敷(データでは在るんですが)で歓待を受けた。
兵藤さんと二人で酒を飲む。
つくづくデータだけど。
「先生はお嬢様をどう思っていらっしゃいますか?」
「好意的というか……」
この時点では。
そんな注釈がつく。
「困惑してらっしゃいます?」
「まぁ」
ケイオスの慕情の理屈は解した。
光栄ではある。
まさか私のインタフェースに触発されたとは初耳だ。
酒を一口。
もっとも、
「そんなケイオスを知ろうとしなかったので」
それも事実。
少なくとも真理の一側面。
「お嬢様の慕情に悩んでくれているんですね」
兵藤さんは嬉しそうだ。
「お嬢様に代わってお礼申し上げます」
「ぶっちゃけ都合が良いだけなんですけどね」
至極道理だ。
褒められれば嬉しい。
けなされれば哀しい。
ミスインタフェース。
その価値を改めて褒められた事で心が浮いただけかもしれない。
そう述べると、
「けれども嬉しいという感情は事実でございましょう」
酌をしてくれる兵藤さん。
「ですね」
そこは否定できない。
「兵藤さんはケイオスをどう思っていらっしゃるので?」
「愛らしいお嬢様です」
うっとりとして兵藤さんは断じた。
「もしかして邪な感情を持っていらっしゃる?」
「いえ。そこまでは」
違うらしい。
「けれども才色兼備とはお嬢様の事でしょう」
それはわかる。
金髪赤眼の超絶美少女。
カオス値を開発したドクターカオス。
しかもまだ十六歳と来る。
いわゆる一つのチートキャラ。
家の出身も世界財閥だ。
何の因果で私なんかに目をつけたのやら。
ここで吐露されて漸く納得がいった。
それも確か。
「お嬢様には幸せになって貰いたいです」
「宮仕え根性?」
「ですね」
苦笑されてしまった。
「お嬢様が先生を慕われるのなら……」
なら?
「先生にも応えて貰いたいです」
「…………」
すぐさっきまでなら即決でけんもほろろだったろう。
「そっちの趣味は無い」
そう言えたはずだ。
なのに、それを喉元まで通そうとすると心が出血した。
軋むのだ。
クオリアが。
理屈の上では分かってる。
私はケイオスに惹かれている。
そっちのケは無いはずだけど、少なくとも私の側面を臆面もなく愛してくれるケイオスを、
「可愛い」
と思ってしまう。
認めたいのに認められざる心情。
「ツンデレですね」
兵藤さんは私の心をそう評した。
「ツンデレ……」
酒を飲んで苦みを胃へ。
「悪感情を持ってらっしゃらないだけでもお嬢様には吉報でしょうが……」
そなの?
「好意的と仰るならこれに過ぎたるはありません」
でもなぁ。
なんだかなぁ。
私にそっちのケは無いはずなんだけどなぁ。
認めてしまうと何かに敗北しそうな予感。
この危機感はどこから来るのだろう?
「是非とも」
これは兵藤さんの言葉。
「お嬢様と恋仲になっては貰えませんか?」
「ケイオスの子どもを見なくて良いの」
「どちらにせよソレは不可能事であります故」
「?」
理屈が分からない。
「お嬢様から話される事でもありませんから当方が話します」
嫌な予感。
「お嬢様は何時お隠れになってもおかしくないのです」
「…………」
無論のこと仕える人間をブラックジョークのネタにはしないだろう。
けれども、
「……本当に?」
齟齬の存在を疑う程度には衝撃的だった。
「ケイオスが……死ぬ……」
何時とも知れぬ身で?




