人工天才3
「ケイオスは何で私を好きになったの?」
酒を飲みながら私はこれまで幾度も考えた問いをとうとうケイオスに問いかけた。
「先生の感性に感銘を」
それは聞いた。
「その感性をどうやって調べたの?」
ストーキングだろうか?
「ミスインタフェースの感性は表現されているでしょう」
さも当然。
ケイオスはそう云った。
どこで?
内面の安売りはしていないつもりだけど。
日記の類は書いていないし、書いていない以上見せてもいない。
が、ケイオスはサックリと言った。
「MITの論文」
と。
「あー……」
それは盲点だった。
たしかに私も論文は書いたけど。
ある種の自己表現には違いない。
「読んだの?」
「先生を知る程度には」
「それだけではありませんよね?」
兵藤さんがクスクスと笑う。
「ええ」
瞳を閉じて笑顔を見せるケイオス。
「僕は先生のおかげで此処に居るんですよ」
「?」
どういう意味だろう?
「先生の唱えた次世代イメージインタフェースがあるでしょう?」
「ふむ」
懐かしい。
人間の能力限界とコンピュータの操作限界を擦り合わせて、最も効率が良いと思われるインタフェースを発表したのは忘れていない。
おかげで、
「ミスインタフェース」
と呼ばれてしまったのだから。
けれどそれを言うなら、
「ドクターカオスも相当だと思うけど」
「基本的に僕の功績は先生有りきですから」
「?」
何度目かの疑問。
「先生の提唱した次世代イメージインタフェースあったれば僕はカオス値を構築できたんです」
「そなの?」
「そなんです」
特に嘘の気配は感じない。
けれども。
ねえ。
「繋がってないのでは?」
「そんなことありませんよ」
穏やかに微笑するケイオス。
「完璧な能率と統制で構築された次世代イメージインタフェース。であるからこそ僕の才能を十二分に振るう事が出来たのですから」
「カオス値?」
「です」
「はあ」
「信じてませんね?」
「そりゃまぁ」
インタフェースが適応されたのは開発者として偏に光栄だけど、「別に一般のインタフェースでも良くない?」が本音だ。
「無理ですよ」
言い切ったね。
「あのインタフェースの流麗さを見たが故にカオス値の構築が可能になったのですから」
つまり、
「感性?」
「ええ」
やはり頷かれる。
「先生の才能に惚れ込みました」
率直に心臓を抉ってくる。
「その精緻な知性と穏やかな天才性は敬服に値します」
「さいでっか」
酒を飲む。
身の丈を超えて褒められると恐縮するより他はない。
「インタフェースを一目見た瞬間に先生に会いたくなったんです」
「…………」
「どんな人だろうって。どんな徳なのだろうって」
「さほどでもないけどなぁ」
心底から言う。
「先生を調べてデータで理解した瞬間……僕は恋に落ちました」
……趣味の悪い……。
「先生を想います。この命に賭けて」
「いやぁ」
命を賭けなくても。
「お嬢様……」
兵藤さんは少し暗い顔になった。
何か懸念でも?
「えへへ」
ケイオスは顔を赤くして照れた。
「少し座を離れます。トイレに行きたくなりました」
たまにある。
電子世界にダイブしても生理現象に勝てない時というのは。
そしてケイオスはログアウト。
「とりあえず私はどうしましょう?」
「お持てなしさせていただきます」
「感謝」
酌をして貰う私だった。




