人工天才2
そして私とケイオスは中庭で茶を飲んでいた。
私の方は酒だが。
とはいえデータなので悪酔いはしない。
スキッと辛口ながらにフルーティな日本酒。
データで再現された純米大吟醸。
「美味しいですか?」
「そりゃね」
こんな馬鹿高い酒を飲めば。
「なら嬉しいです」
破顔するケイオス。
当人は抹茶を飲んでいた。
ついでに白玉を食べている。
私は炙ったイカ。
常々データだけど。
「先生は日本神話を知っていらっしゃいますか?」
「常識の範囲ならね」
「神話によれば」
抹茶をクイと飲む。
「美人の花の神様とブチャイクの岩の神様を嫁に出されて美人の花の神様だけを娶ったとか」
「おかげで人は美しくも儚い存在になった」
そう言われている。
「刹那と永遠」
「美と醜」
そう云った事を日本神話は対比する。
日本神話にも酒が出てくる辺り、古事記や日本書紀の時代には酒があったという事だ。
奈良時代だっけ?
あまり深くは覚えていない。
「酒が汚れを払うとも」
「何かと酒に弱いからね」
神にしろ鬼にしろ。
「聖書なら我が血だ……とワインを注ぐ場面もありますよね」
「聖杯ね」
最後の晩餐だ。
「酒に歴史在りって事で」
「ソレが言いたいがために誘ったの?」
「いえ。単純に桜を見たかったからです」
セカンドアースならたしかに気温も開花も調整は出来ようけど。
「僕としては先生と一緒に居られるだけで幸せですから」
「さいで」
酒を飲む。
「お気に召しませんでしたでしょうか?」
兵藤さんが少し哀しげに問うてくる。
「そんなつもりは毛頭」
「綺麗ですよね」
「綺麗だね」
「先生が」
「桜が」
…………?
何か齟齬があった様な……。
「桜も綺麗ですけど凜先生はもっと綺麗です」
「残念な感性だね」
皮肉ってしまう。
このモブ眼鏡を捕まえて何を言うやら。
「もうちょっと自覚した方が良いですよ?」
「忠告は有り難く」
酒を飲む。
酌をして貰い、器に酒を満たす。
その後、抹茶をたててケイオスに差し出す兵藤さんだった。
「須磨先生」
正座をしている兵藤さんが問う。
「MITには戻られないので?」
「特に勘案はしてないですね」
酒器を傾けながら私。
「ミスインタフェースならば引き留められたでしょう?」
「今でも付き合いはありますけど」
「論文を書け」
とか言われる。
司書とオドと論文で私の時間は構成されている。
「研究自体は日本でも出来ますし」
スパコンを使う類でもないので量コンで十分だ。
「お金なら支援しますが……」
「既に」
ケイオスの金髪をポンポンと叩く。
「此奴から百億円貰ってます」
経費らしい。
一切手をつけてないけど。
「須磨先生は無欲ですね」
「価値観の相違だと思いますが」
別に金に比重を置いていないだけで、欲自体は私にもある。
「性欲は?」
これはケイオス。
「下品」
チョップ。
「あう」
頭を押さえるケイオスだった。
「ふふ……」
兵藤さんが笑う。
「何か?」
「いえ。お嬢様を畏れ入らない他者というのは珍しい物で」
「一応教師と生徒の関係ですからね」
キスはしたし一緒にお風呂に入っているけども。
「そもそも」
と私。
「ケイオスが何ゆえ私にピンポイントなのかもわからない」
のだ。




