超過疾走症候群1
フリーフィールドのヴェネチアエリアに僕たちは来ていた。
オドの話です。
念のため。
ヴェネチアエリアは一般的な例にもれず戦闘区域と非戦闘区域に分かれている。
で、僕たちは非戦闘区域でゴンドラに乗ってゆらゆらとヴェネチアエリア(先回りして言っておくとヴェネチアエリアとは銘打ってあるものの別にヴェネチアを丸ごと再現しているわけじゃない)を満喫していた。
ふよふよ。
ゲームのキャラが器用にゴンドラを漕いでくれる。
ちなみに僕たちは三人だ。
白い短髪に赤い瞳のアルビノ美少年のアバター。
僕ことハイド。
いいでしょ。
ネトゲでくらい美少年やったって。
紺青秋子はコキアと云う名前の青い長髪のアバター。
美少女かつ現実に則した胸。
きょにゅ~。
青いカクテルドレス。
それから今は装備していないけどウィザード専用の魔法の杖を持っている。
僕が渡した物だ。
信濃夏美はミツナと云う名前の赤い長髪のアバター。
美少女かつ現実に反した胸。
きょにゅ~。
赤いショートドレス。
それから今は装備していないけどガンリアー専用の銃を持っている。
これも僕が渡した物だ。
計三人。
ヴェネチアエリアを楽しんでいた。
「こういうのもいいよね~」
僕はゴンドラに乗ってまったりと言った。
「まぁ癒されますが」
とミツナ。
「ゴンドラを楽しむだけならセカンドアースでもいいのでは?」
とコキア。
「あっちはリアルマネーがかかるからね」
ゲームの世界ならゲーム通貨で済むという話だ。
「そんなものなんだ」
「そんなものなんです」
ゆっくら。
くらくら。
波に揺られてゴンドラが進む。
水路の先に出店があった。
「お」
目敏く発見。
じゃがバター。
船主さんに頼んで接岸してもらう。
それから出店に注文。
「じゃがバター三つ」
「あいさ」
店主が快く請け負い、
「お」
「はや」
僕とコキアとミツナの手元にじゃがバターがポップする。
それを、
「うまうま」
と食べながら僕はゴンドラに揺られる。
「今日は観光するだけですか?」
これはミツナ。
言っている内容は否定的だけど、
「…………」
じゃがバターは大層に気に入ったらしい。
もむもむと食べていた。
ちなみに電子世界……ヴァーチャルリアリティであるオドでも食事をすれば脳が誤認して満腹中枢を刺激する。
ので過度にVR世界で食事をとるのは厳禁なんだけど、
「ま」
じゃがバターくらいなら問題は無いだろう。
閑話休題。
「今日の予定はヴェネチアエリアの戦闘区域でレベル上げ」
僕は言う。
同時に思考操作でヴェネチアエリアの地図と出現モンスターを表示。
後の共有。
イメージウィンドウがコキアとミツナの視界にも映ったはずだ。
「ヴェネチアエリアのモンスターは一種類。ニクシーだけ」
「ニクシー……」
「たしかドイツにおける水の妖精ですよね?」
「そ」
よく知ってるね。
「水属性のモンスター。水面から顔を出して水鉄砲を放ったり歌で感覚を惑わせたり物理的接触なら水中に引きずり込もうとしてくる」
「はあ」
「ほう」
ポカンとするコキアとミツナ。
こういう時はリアーやウィザードが羨ましくなるけど……無い物ねだりをしてもしょうがにゃ~。
で、
「ボスはキングニクシー。こいつはオーバードライブシステムを使ってくるから初心者にはちと厳しいかな?」
「オーバードライブ……」
「システム……」
そゆこと。
まぁ最初からわかるはずもない。
基本的にオーバードライブシステムに慣れるには時間がかかる。
僕は例外だけど。
無論のことウルトラCはあるけどね。




