恋も病も患うモノ3
「須磨先生!」
古書館に一人の生徒が現われた。
六菱七糸。
黒いポニーテールと白い双眸が特徴の美少女だ。
「何か?」
「今日はケイオスさんは休みです」
「だね」
「イチャイチャしましょう」
「無理」
「好機を逃すは天意に背く事です。この因果に則るならば、なおのことイチャイチャするより他に無いでしょう」
どこの空だ。
「とりあえず」
嘆息。
「古書を必要としないならここに来なさんな……我ながら狭量なことを言っている気もするけどね」
古書館は古書を読む場所だ。
「先生?」
艶やかな言葉がすぐ近くで知覚できた。
「いただきます」
キス。
そう呼ばれる行為。
もっとも、
「……あれ?」
立体映像相手じゃソレも叶わないけど。
「あれ? あれ?」
スッスッと私の映像に手を差し伸べてかき回す。
「アバターですか?」
「だね」
「フルダイブ?」
「まぁそんなところ」
呼吸の様に嘘をつく。
私の得意技の一つで、一銭にもならない奥義ですらあったりなかったり。
「ふぅん?」
と七糸。
「何か?」
「先生はケイオスさんと一緒ですよね」
「だね」
「ということは」
「ということは?」
「意識を失っている先生を好き勝手に」
「出来るならね」
実際の私の意識は部屋でコーヒーを飲んでいる。
片手でアバター操作。
片手で喫茶だ。
「ま、その辺は調子合わせてるから大丈夫よ」
クスッと笑う。
「先生」
と今度は現実の方。
凜と鈴振る声。
ケイオスのソレだ。
「お腹空きました」
「仰せの通りにお姫様」
インタフェースを相対固定して立ち上がる。
それから使用人に昼食を作って貰う。
「二人揃って食べられるように」
と雑炊。
暖かみとダシの香りが利いた一品。
「はい、あーん」
息で冷ました雑炊をケイオスの口元へ。
「あーん」
雛鳥。
やっぱりそんな心境。
何せ可愛らしすぎるんだよなぁ。
私はそっちのケは無いつもりだったけどケイオスはとかくパラメーターが突き抜けすぎている。
その尊貌も精神も。
いいんだけどさ。
「お水」
「はいはい」
薬を飲んで安静に。
私は使用人にコーヒーを用意して貰ってソレを飲む。
「あの」
とケイオス。
「僕はお邪魔ですか?」
今更?
言うべき時機を逸している気がするんだけど……その辺どうよ?
「風邪をうつすかもしれません」
「いいんじゃない?」
人にうつせば治るらしいし。
「先生は何でそんなに優しいんですか?」
「優しいかなぁ?」
あまり自覚は無い。
「僕を拒絶しません」
「百億も貰えばね」
皮肉った。
「でも手をつけてませんよね?」
「貧乏性です故」
ある種の事実だ。
別に金に困っていないため基本的には自前で十分。
ストイックともまた違うけど。
打鍵しながらケイオスの相手。
アバターを通じて七糸の相手。
どちらに対しても振り回される。
中々どうして乙女心は複雑怪奇。
こんなモブ眼鏡を相手にしなくても……、
「「先生」」
「はいはい」
何でしょうか?




