恋も病も患うモノ1
「三十七度五分」
体温の自己申告。
「風邪だね」
他に何も言いようが無かった。
「まぁある種のタイミングはいいと思うわよ?」
「ゲホッ」
ケイオスが咳一つ。
ポーッと顔が赤くなっていた。
まぁこればっかりは人間の業だ。
致命的な病気への対策は開発されている物の、いまだ医学は風邪の封殺を為しえていない。
「そんなわけで」
ケイオスのおでこに冷却テープを貼る。
「お粥を食べて抗生物質を飲んで汗をかいて眠っている事」
ダブルベッドの端に座ってポンポンと金色の頭を優しく叩く。
「先生……」
「何でしょう?」
「一緒に……居て……?」
ぐぅ。
可愛いじゃないですか。
「とはいえ仕事がなぁ」
一応コレでもサラリーマンだ。
職務放棄は減点対象。
「事情はこちらで説明します故」
「ああ、大丈夫。そういう意味じゃ無い」
「?」
「一応ここにいても仕事は出来るし」
そう言ってイメージインタフェースを展開する。
ユビキタスネットワークに繋いで学園長へ。
投影機に私のアバター(マリンでは無い。念のため)を投射した。
「お、おはようございま……す?」
学園長の困惑。
まぁそうなるよね。
状況を説明して納得して貰う。
さほど難しい事でも無い。
そんなわけで今日は妃ノ守女学園一学期最終日。
終業式である。
特にたらたら話を聞き流して終わり。
教師はそう云うわけにもいかないけど、とりあえず私が壇上に立つわけでもない。
立体映像でも問題は無い。
そんなこんなでインタフェースにてアバター操作。
遠く私の部屋から教師として相務めるというもの。
「ま、そんなわけだから心配しなくていいわよ」
クシャッと金髪を撫でる。
「あは」
赤い瞳が安堵の光を湛えた。
既に使用人はケイオスへの対処に東奔西走。
派遣医師がやってきて診断。
そうでなくとも自身の体の障害はある程度自身で把握できるように作られてる。
テクノロジーの勝利だ。
まぁ負けたから風邪引いているんだけど。
「薬を出しておきますので」
そう言って風邪薬や解熱剤を置いて去って行く。
「酷くなる様ならまた呼んでください」
とも。
良い先生ではある。
「ケホッ」
咳一つ。
「とりあえず食欲はある?」
「少しなら……ですけど」
「お粥くらいは食べなさい」
「はい」
真摯に頷く。
使用人が粥を作って運んでくる。
受け取ってレンゲで掬う。
「はい。あーん」
「あーん」
素直に口を開けるケイオス。
ツバメの雛みたいだ。
そゆところも可愛らしい。
「えへへ……」
唐突にケイオスがはにかんだ。
「何か?」
「先生に優しくして貰えました」
「病人に鞭打つ様に見えた?」
「そういうわけじゃありませんが」
「が?」
「役得です」
「さっさと風邪を治しなさい」
「はーい」
「はい。あーん」
「あーん」
万事そんな感じ。
元からケイオスは甘え上手だったけど、病気も手伝ってか私の対応も甘い。
別にいいんだけどさ。
食事を終えるとインタフェース操作。
自分の分身を動かす。
「二足のわらじと言うけれど……か」
だいたいオドを画面プレイする辺り、
「アバターの間接操作」
は得意な方だ。
殆ど人間同様に動かせる。
そんなわけで、
「おはようございます」
と職員室にアバターを投射。




