三つの心と一つの想い7
次の日。
私は目を覚ました。
何か夢を見たような気もするけど、意識の映像には靄が掛かり、どこか曖昧模糊とした映像で、なにより時間経過で薄れていってしまった。
隣には全裸のケイオス。
一緒のベッドで寝たのだ。
あくまで睡眠の意味で。
さすがに手は出せません。
あらゆる意味で犯罪だ。
これで未婚の喪女が未成年……それも同性に手を出したとなれば社会ニュース的に破滅もする。
「あー……」
「お目覚めですか須磨様」
ケイオスの使用人が礼儀正しくかしこまった。
「ええ」
肯定。
「お飲み物でも……」
「コーヒー」
「承りました」
そしてキッチンに消えていく使用人さん。
一応仕事に従事されているのだろうけど、なんだか申し訳ない気分にもなる。
――給料を払っているのがケイオスだからだろうか?
「あー」
寝ぼけた頭をかきむしる。
それから眼鏡をかけてシャツとジャージの下を着る。
下着姿で寝ていたが、さすがに起きれば着ざるを得ない。
ダイニングに顔を出して、それから差し出されたコーヒーを飲む。
もちろんブラック。
カフェオレの類も好きだけどねん。
「朝食は何にしましょう?」
「お茶漬け」
「承りました」
承ったらしい。
「私に奉仕するのは給料の内?」
使用人に問うてみる。
「ええ、多少は」
「多少以外は?」
「お嬢様の愛する人への献身です」
これ以上は無いかと。
そんな答え。
要するに誰も彼もロマンチストということだ。
ケイオスも。
みゃっこも。
七糸も。
偏に救い難いのだろう。
私に云えた義理でも無いけど。
「むにゃ」
全裸のケイオスがダイニングに現われた。
「せめて服を着なさい」
言われてケイオスは私のワイシャツを着た。
所謂一つの、「裸ワイシャツ」と呼ばれる格好だ。
「えへへ」
はにかむ。
「先生の匂い」
光栄なことで。
「せーんせっ?」
「何でがしょ?」
「お目覚めのチュー」
「はいはい」
唇を重ねる。
「え?」
むしろケイオスは困惑した。
さもあろう。
私が能動的に好意を示したのだ。
珍しいと言えばその通り。
「……っ!」
ジャンピングハグ。
とりあえずコーヒーは飲み干しているので問題は無い。
「先生」
「何?」
「好き」
「だね」
「先生も?」
「どーだろーねー」
金髪を撫でる。
「おはようございますお嬢様」
「おはようございます」
「朝食は茶漬けで良いでしょうか?」
「構いません」
「恐縮です」
「こちらこそ」
言ってダイニングの席に着く。
アイスティーが出された。
「お茶漬けは先生のリクエストですか?」
「そ」
コーヒーのお代わりを貰う。
カップを傾ける。
ほろ苦いけれど苦痛ではない。
むしろその苦味が旨味として感じ取れる程度には丁寧に豆をひいてあった。
「先生は……」
「何でしょう?」
「モテますね」
「蓼食う虫が多くて」
悪食と云う。
「他の人にキスしちゃ嫌ですよ?」
「アレは不可抗力」
相手方は知らんけど。
というか七糸の名前をもう忘れたか。
しばし歓談しながらお茶漬けを楽しみに待つ私たちであった。
もしもあの世があるならば、
「何回地獄に落ちるやら」
鬱屈。




