三つの心と一つの想い2
「むー」
家に帰るとケイオスが抱きついてきた。
ちなみに毎度お馴染みジャージ姿の私である。
イメージインタフェースで論文をカタカタ。
そんな感じで作業を進める。
使用人が手作りの料理を作る横で、ベッドに寝転がって打鍵する私を、
「む~」
再度になるけどケイオスが抱きついていた。
「何か?」
「先生はあの女生徒が好きなの?」
もう名前を忘れたらしい。
単純に個別記憶で私関連であるから、
「凜先生の唇を他者に奪われた」
程度のおぼろげな記憶なのだろう。
「七糸ね」
「ななし……」
「六菱七糸」
「六菱工業?」
「そこの御令嬢」
「僕もブルーハート財閥の令嬢だよ?」
「知ってる」
今更だ。
「僕の方がお金持ってますもん」
「ソレはケイオスの魅力とは別問題」
「む~……」
不機嫌になるケイオス。
「ケイオスは何を求めてるの?」
「先生の恋と愛」
「両方でっか」
贅沢なことだ。
「先生は凄い人!」
過大評価。
世はそう呼ぶ。
「先生が居たから僕の世界には彩が付きました」
それは前にも聞いたね。
「先生は僕の恩人」
でっか。
「ミスインタフェース」
ドクターカオスの先輩だ。
今は無き時間だけど。
足跡くらいは辿れる。
意味があるかは別問題。
「先生は僕を好きですか?」
「人並みには」
「特別に為っては?」
難しいなぁ。
「代わりは居ないの?」
「先生じゃないと駄目」
それもどうだか。
偏頭痛にならなければいいけど。
とりま、
「一応可愛くは思ってるわよ」
金髪を優しく撫でてあげる。
「えへへぇ」
フニャッと相好を崩される。
ワンコに懐かれた気分。
これは先述したけど。
偏に私を想ってくれるのは嬉しいけど……、
「何ゆえ私?」
には返答が無い。
どうにもふにゃふにゃと躱される。
それでいてこっちに踏み込んでくるのだから可愛いワンコだ。
キーボードをカタカタ。
「楽しいですか?」
「あまり」
論文を楽しんで書く人間は……居ないとは言わないけど。
「袖擦り合うもってね」
クシャクシャと撫でる。
「見せて貰えますか?」
言われてモニタを共有する。
「思念言語インタフェースの可能性……」
「まぁ色々とね」
教授がこっちに丸投げした題材だ。
「別段珍しいものでも無いでしょ?」
「私生活に支障をきたす範囲では……ですね」
その通り。
「その支障を無くすために何をすべきかってのがコンセプト」
「ははぁ」
感心されてしまった。
「やっぱり先生は凄いです」
「いや」
いやいや。
「肝心の論文ではそこにふれてないし」
「文言並べるだけでも凄いです」
そーかなー?
さすがに、
「正式に開発しろ」
何て言われれば、
「自分でやれ」
と返す所だ。
「謙遜は日本の美徳ですね」
「私は自分に正直なだけよ」
皮肉というか自嘲というか。
あまり全肯定されることに慣れていない。
下に見られる程度で丁度良いのだ。




