七糸の逆襲4
「先生はケイオスさんが好きなんですか?」
「あまりそうでもないなぁ」
好意的ではあるけど、慕情とは少し違う気がする。
「では何で一緒に住んでいるんです?」
「何で知ってるの?」
そっちの方がホラーだ。
「先生について少し調べさせて貰いました」
「誰に」
「懇意にしている興信所に」
さすがは六菱工業の御令嬢だ。
無駄なことに金を使う。
「私を調べるなんて金の無駄だと思うけど……」
論文を、片手間に記しながら嘆息。
「ミスインタフェース」
「へぇ」
そこまで知られているのか。
まぁ一種の二つ名だ。
「先生は何で妃ノ守女学園に?」
「特に理由は無い」
有り体に言えば、
「楽できるから」
に終始する。
「MITは狭かったですか?」
「此処ほどじゃないけどね」
マサチューセッツ工科大学。
私の学歴だ。
ついでにケイオスの学歴でもある。
さらに今、私が書いている論文の、発注元でもあった。
「ケイオスに構うのは先輩だからですか?」
「そんなつもりは毛頭」
ドクターカオスは、論文で知ったくらいだし。
「ドクターカオス」
ケイオスの二つ名だ。
完全なる乱数。
カオス値の構築。
コンピュータ関連の革新を行なった天才。
私では並び立てないほどの誉である。
いいんだけどね。
「ケイオスさんの方は、先生の事情を知っているのでしょう?」
「だろうね」
色々言われてます。
「叫んで良いですか?」
「何て?」
「感動詞で悲鳴を」
「…………」
七糸の脱ぎたてパンツは、私の目の前に置かれている。
レズ教師が女生徒に暴行。
明日の朝刊が、華やかになるね。
で、
「私を脅してどうしたいの?」
「先生と仲良くなりたいです」
「それはまた徒労を……」
いっそ尊敬に値する。
時間の無駄の極致だ。
「先生にとって私は可愛くないですか?」
ポニーテールが、不安げに揺れる。
白い瞳は、試す様な光を、湛えていた。
「かわいいですよー」
棒読み口調。
愛想を尽かされた方が、まだマシだ。
「はぁ」
と七糸の嘆息。
「何でMITのエースがこんなところで……」
「さもあらんね」
全く同意できる。
残念無念。
「だいたい七糸は他の生徒に言い寄られてるでしょ?」
「六菱の名があったればこそです」
「普通に可愛らしいんだけど」
素っ気なく言うと、
「ふや……!」
真っ赤になる七糸だった。
案外純情らしい。
「んー……」
コーヒーを飲みながら、論文の思考。
いまいち説得力が……。
「先生は私が手にいれます」
「ケイオスに刺されるわよ」
「その場合は日本の法律で裁いて貰うのみです」
無理だと思うなぁ。
六菱工業を軽んじるつもりは無いけど、
「役者不足も甚だしい」
そんな感じ。
「先生はケイオスの味方ですか?」
「永世中立的立場ね」
あまり刺されたくは無いんだけど、
「他に言い様も無い」
も事実。
「面白くありません」
「芸人でもないし」
「そう云う意味じゃありません!」
「知ってるわよ」
大声出さなくても。




