七糸の逆襲3
「だが断る」
古典的言葉で、拒絶が返された。
「なら何か飲む? 量子変換機使って良いから」
「では玉露を」
頼んで、チン。
湯飲みを持って、喫茶に興じる二人。
「七糸は、私をどう思ってるの?」
「興味深い人」
どういう評価だ。
「須磨先生は、私をどう思ってるんですか?」
「生徒」
「あう」
カクン、と七糸の首が垂れた。
コーヒーを一口。
「私の実家は覚えてますよね?」
「六菱工業ね」
国内では、大企業の一角だ。
「私なら先生を養ってあげられますよ」
「間に合ってる」
「無償で贅沢できるんですよ?」
「その辺の感覚に疎くてね」
「もちろん働きたいなら好きにされて構いませんし」
そなの?
「単純に六菱の庇護下に入りませんかということです」
「その先は?」
「私の恋人になってください」
「私の何に惹かれたの?」
「まぁ色々と」
含みのある言葉だった。
視線が、逸らされる。
何やら、腹に一物ある感じだ。
「それを聞かせもらわなければ信用にも値しないんだけど」
皮肉。
そうかもしれなかった。
「とりあえずコンタクトにしませんか?」
「めんどい」
眼鏡と違って、ケアが要る。
「綺麗なお顔なんですけどねぇ」
片腹痛い。
自称モブ眼鏡に対するアンチテーゼだ。
「あと優しいですし」
「本当に優しい先生なら、生徒指導くらいはするわよ」
愛の鞭。
私のコレは、優しさでは無く、放任主義だ。
「古書館に地下に行きませんか?」
「何するの?」
「ナニします」
「…………」
沈黙。
論文カタカタ。
「あ、大丈夫です」
「何が?」
頭の状況では、ないだろう。
「処女なんで性病の心配とかは……」
「とりあえずカウンセラーが必要な状況なのは理解できたわ」
嘆息。
コーヒーを飲む。
「私じゃ不満ですか?」
「七糸は魅力的よ」
それは確か。
「可愛いんだから私に構う必要は無いわ」
こんなモブ眼鏡に構えば、時間の損だ。
「イケメンを捕まえて、六菱の令嬢として、一生幸せに生きなさい」
これも生徒指導になるのだろうか?
そんなことを、ふと思う。
「先生は結婚を考えたりしないんですか?」
「モブ眼鏡だし」
「愛らしいですよ?」
「聞いた」
素っ気なく。
「私なら先生を幸せにしてあげられるんですけど……」
「金銭事情ならケイオスの方がよっぽどだし」
「むぅ」
不機嫌。
そんな感情が見え透いた。
「ブルーハート財閥の御令嬢だしね」
資産で言えば、六菱の百倍は固いだろう。
基本的に欧米財閥は強固すぎる。
経済事情に於いて、他の追随を許さない。
アジア系では威力が弱まるが、それでも、
「世界を支配している」
と取るのは、誇張ではあっても、虚構ではないのだ。
世界特許による暫定的アドバンテージが無ければ、日本も飲み込まれていた所だろう。
「その財閥の令嬢が、私を好きだと言ってくれる」
何を以て?
それはわからないけど。
「例えば」
と、七糸に、言葉を振る。
「私が七糸に求愛したら幾ら用意できる? 即日で」
「五億は約束できます」
「ケイオスは百億用意したわ」
この辺が、桁違いだ。
「……っ!」
ブルーハート財閥の寄り切りである。




