七糸の逆襲2
オドをログアウトして、論文に意識を割く。
イメージコンソールは相対座標で固定しているため、立ち上がっても、コーヒーを飲みながらでも、作業は出来る。
寝そべっても出来るけど、生憎と寝られる場所が無い。
「簡易ベッドでも導入しようかな?」
不謹慎なことを思う。
けど古書館の司書って……私で無ければ、
「暇すぎて死んでしまう」
系の役職だ。
大いにサボれはするけれど、
「勤務に忠実」
を旨とする人間には向いていない。
私は……まぁ生来がコレなので、特に斟酌の余地も無いけど。
そんなこんなで、論文を書いていると、
「えい」
と、眼鏡が奪われた。
「?」
一気に視界が悪くなる。
ド近眼の業だ。
モブ眼鏡の五十パーセントを占める、眼鏡を取られたのだから……しょうがないが。
もっとも、視界モニタに映っている映像は例外。
別の外界の光で構築された映像では無く、カルテジアン劇場の延長線上であるため、視覚の善し悪しは勘案されない。
モザイクが掛かった様な背景は、とりあえず無視して、論文執筆に精を出す。
それから、
「何故此処に?」
眼鏡を奪った張本人に、問いただす。
「須磨先生に逢いたくて」
七糸は、そう云った。
六菱七糸。
妃ノ守女学園の元プリンセス。
「授業は?」
「抜けてきました」
「そ」
コーヒーを一口。
「怒らないんですか?」
「そんな労力は持ち合わせていないからね」
「むぅ」
「怒られたいなら生徒指導の先生にちょっかいをだしなさいな」
「弱みを握って私の体をあれやこれや……」
「エロゲじゃないんだから……」
「そんな先生にプレゼント」
七糸は、私に何かを、差し出してきた。
受け取る。
とは云っても、何を渡されたか……は把握できないのだけど。
論文を書く手を止めて、
「…………」
プレゼントを見分する。
三角形の布地。
「はい」
眼鏡が返される。
視覚が正常に働く。
パンツだった。
「…………」
何と言うか。
何と言うべきか。
「おかずにしていいですよ?」
「パンツを?」
「脱ぎたてほやほやです」
「犯罪臭が……」
「ここで悲鳴を上げれば先生に不利ですね」
「生徒のパンツを脱がせた聖職者……か」
たしかにヤバい。
生憎、監視装置の類は、此処には無い。
どちらかと云えば、私に不利。
「その脱ぎたてほやほやのパンツで私が自家発電して七糸に何か特が?」
「光栄です!」
笑顔で言うことだろうか。
眼鏡のブリッジを、押し上げる。
パンツは、テーブルに安置。
あれ?
「そうすると七糸はノーパン?」
「その通り!」
あまり知りたくなかった。
「須磨先生?」
「へぇへ?」
「私のものになりませんか?」
「…………」
しばし意味が分からなかった。
何だろう。
最近の私は少し変だ。
ケイオスにしろ七糸にしろ。
色々と寄ってくる。
みゃっこは元々だけど。
いわゆる、
「モテ期」
という奴だろうか?
それにしては残念だけど。
男が一人も居ない。
あんまりそっちのケは無いんだけど。
「とりあえず授業に戻りなさい」
おお。
教師らしい言葉だ。
私の口から出るなんて。




