休日の変質6
「やっほー」
バー『天竺』の前で、私はみゃっこと合流した。
みゃっこが十分遅刻。
別にあげつらうことでもないけど。
私は、眼鏡のブリッジを押し上げる。
茶色い髪と瞳。
愛嬌のある笑顔。
生徒の人気者である、みゃっこ先生だ。
たまに生徒に告られるらしい。
「とりあえず入ろっか」
「だね」
そんなわけで、バー『天竺』に入る。
カウンター席に二人で座って、まずはビールを頼む。
ベルギーのソレ。
「お疲れ様でした」
「お疲れっ」
グラスを打ち付けて、それからグイと飲む。
「ふはー……」
疲労の吐息。
職務のストレスがアルコールで気化する現象は、ある種、性欲の発散より、強烈な多幸感を覚えることもある。
「給料泥棒が何言ってんだ」
って話でもあるけど。
「今日は何してたの?」
「資料作成」
「はあ」
司書には関係のない話だ。
「過去の奴をパクって良いとは言われてるけど~」
グイグイ、と、ビールを飲む。
それは私も。
「そのまま流用すると授業にならないでしょ?」
その通り。
「ふは」
一気にビールを飲み干す。
ペースは速いが、みゃっこにとって、ビールは前座だ。
私も付き合って、ビールを飲み干す。
「マスター。泡盛」
「こっちはピンクレディ」
みゃっこが泡盛を、私がカクテルを頼む。
泡盛を、焼酎の様に飲みながら、みゃっこは云う。
「結局他校のデータ借りたんだけど……」
「問題でも?」
「何で生徒の学力のために教師が東奔西走? って感じ」
「教師の宿業だねぇ」
しみじみと私。
ジンの辛さを楽しみながら呑む。
「もっとさぁ。先生ってさぁ。生徒相手に厳しくしたり優しくしたり指導したり甘く見てあげたりって感じがしてたじゃん?」
わからない話じゃない。
「白鳥は水面下では必死に藻掻いてるから」
「それなのよ。大変なのよ」
泡盛を、喉に通す。
「ブレインアドミニストレータが無かった頃はテストも教師が作ってたんでしょ? まぁ有り得ないわよね~」
「便利な時代なのか何なのか……」
監視社会にもなったけど。
ゴッドアイシステムとか。
「マスター。シングルモルト」
早っ。
もう泡盛空けたんかい。
「それからチョコレート」
そんなこんなで、パカパカ、二人して呑む。
一応ペースは考えている。
あくまで私は。
みゃっこは……まぁ……ねぇ?
チェイサーも、あまり役に立っていない。
「そんなわけで凜ちゃんと酒飲みたかったの」
「事ここに及んで云うことはソレか」
「凜ちゃん結婚して~」
「だから旦那が出来たら浮気してあげるから」
「凜ちゃん以外はやーよー」
そんなものだろうか?
一応理性があるとは信じているけど。
「司書は楽?」
「古書館限定」
「だよね~」
「良く言って給料泥棒ですけん」
「私も司書の資格とろうかな?」
「一応図書館の先生も、それはそれで忙しいみたいよ?」
私が例外なだけで。
というか日本の図書館は外国のソレとは少しニュアンスが違う。
何というか、
「あくまで機関」
って感じ。
人情味が無い、とも言う。
別に非難しているわけでもないけどね。
「ワイルドターキー」
私は更に酒を頼む。
続く様にみゃっこも。
「凜ちゃん?」
「怖いんですけど」
「ケイオスさんとは何もしてないよね?」
「ナニはしてないよ」
「私としない?」
「勘弁」
「じゃあ酒の勢いでやっちまった感を出すために次の店に行こ!」
「まぁ付き合いますがね」
アルコールで、精神的肩こりが取れるなら、良しだろう。
ケイオスは、ちゃんと寝てるだろうか。
帰りが遅くなること、請け合いだ。




