休日の変質5
「はぁ~……」
やってしまった。
結局部屋から一歩も出ずに(それはケイオスと出会う前からだけど)休日を過ごしてしまった。
とりあえず風呂に入る。
元が一人部屋だ。
二人では入れる様な造りではない。
だからこそ、二人で無理して入ろうとすると、体を重ねることになる。
お湯が、二人分の体積だけ、湯船から零れる。
「えへへぇ。先生のおっぱい」
もみもみ。
「揉むな」
ペシッとチョップ。
「いいじゃないですか」
「何がよ?」
「恋人ですから」
「情報に齟齬があるね」
「あんなディープな奴をしたんですし」
「ノリノリの時しかしないけどね」
眼鏡がないので、声質で反応を伺うしかない。
一応デジタル処理で視覚補正は出来るけど、
「目と云うハード」
がイカれているため意識……、
「カルテジアン劇場にフィルターをかける」
が、言語としては正しい。
故にモブ眼鏡である。
眼鏡を外す度にフィルターを掛けるのも何なので、眼鏡に頼り切る私である。
「眼鏡をしてない先生も素敵です」
「ありがと」
眼鏡が取れたら、ただのモブだ。
凡俗の象徴と云いますか。
基本的に生まれが凡庸な物で。
「先生」
「次は何でしょう?」
「毛が生えていますね」
「てい」
ぼやけた視界で、ケイオスのほっぺたを、両手で引っ張る。
ブルドッグ。
「なにひまふか~」
何するかって……そりゃ体罰。
「せかちに訴えますよ?」
「御苦労様」
多分ケイオスには出来ない。
まぁ首には出来るだろうけど。
厄介な人間に選ばれたものだ。
そこに、
「ピコン」
と電子音。
視界モニタで確認。
メッセだった。
視覚ポインタで、メッセを開く。
「ハロー。今暇」
みゃっこからだ。
「まぁ暇と思えば」
そんな返し。
「呑みに行かない?」
「職員で?」
「んにゃ。二人で」
「まぁいいけど」
「やた。じゃあ十時に天竺ね」
バーの名前だ。
「はいはーい」
私はそうメッセを返して、打ち切る。
「痛いのですけど……」
いまだケイオスには、ブルドッグ。
「ああ、ごめん」
パッと離す。
「何か?」
「何が?」
「視覚ポインタで作業していました」
聡いね。
別に気にしないけど。
「ちょっと呑みにね」
「酒ですか?」
「そりゃまぁ」
大人が夜に出かけてやることなんて二つしかない。
「飲み会?」
「んにゃ?」
まぁソレも嫌いじゃないけど。
「みゃっこと二人で」
「…………」
空気の質が冷えた。
多分、今、睨まれている……はずだ。
眼鏡がないので、よくわかんないけど。
「気をつけてくださいね?」
「何によ?」
「相手に」
「危険物じゃないよ?」
「ある種、火がついたら爆発すると思います」
女性はニトログリセリンで出来てるのかな?
「まぁアレは多分可愛がりだから」
「それもそれで不本意なんですけど……」
「我が儘ね」
「独占欲が強くて……」
申し訳なさそうな声だった。
その金色を、クシャッと撫でる。
「今日は先に寝てなさい」




