休日の変質2
「サインください」
「構わないけど」
サラサラと、データペーパーにサインをして、こちらに転送してくる量子ちゃん。
三重にバックアップを取って保管。
それから、
「なして量子ちゃんが?」
首を傾げる私。
「お友達なんです」
ケイオスが言った。
「お友達……」
かたや外国財閥。
かたや日本国内の電子犯罪抑止力。
どう仲良くなるというのか?
やはり首を傾げざるをえない。
「色々お世話して貰ったんですよ」
ケイオスの苦笑。
その赤い瞳は、慈しみの色だった。
「お世話?」
「秘密です」
口元に一本指を当てる。
チラと、量子ちゃんに視線をやる。
「まぁ時期が来ればケイオスが話してくれるんじゃない?」
こっちも説明する気無し……と。
「というか仕事は良いの?」
「並行してしてるわよ。さっきも一人検挙した所」
「器用だね」
「まぁそれだけで済まないのが、雉ちゃんの凄い所なんだけどね」
量子ちゃんの嘆息。
――『雉ちゃん』って誰だろう?
「というわけで三人で映画観賞。決定です」
「おー!」
グッと、握り拳を、天に突き上げる量子ちゃん。
テンション高いな。
「量子ちゃんもアニメとか見る方?」
「まぁ一通りは」
意外だ。
逮捕と検挙の化身かと思っていた。
「まぁ色んな人を捕まえてきたからね」
とは量子ちゃん。
「人生様々人様色々。結構懐は深いつもりです」
あえて丁寧語で述べてウィンク。
ヤバい。
可愛い。
「ところで初めましてミスインタフェース。私は大日本量子と申します。失礼ながらお手前は?」
「ああ、挨拶はまだだったね。須磨凜と申します。凜とお呼びくだされば」
「ま、パーソナルデータは照会できるから、あまり意味は無いんだけどね」
でしょうね。
あくまで礼儀の都合上だ。
なんにせよ、
「お友達と言うことで?」
「構わないね」
あの大日本量子と……。
「ま、電子犯罪を起こさない限りでは、善良かつ一介のアーティフィシャルインテリジェンスに過ぎないから」
いやぁ。
それはどうだろう?
「というわけで凜先生」
「何じゃらほい?」
「デートしましょうね?」
「量子ちゃんは?」
「監督です」
「そなの?」
「まぁ同行はするけど邪魔はしないね」
そーなのかー。
「教師と生徒の禁断百合関係には興味あるし」
そっちかよ。
内心複雑な思いを抱えながら、
「まぁいいか」
とりあえずは思考を放棄。
コーヒーを飲む。
「よく飲めますね」
とはケイオスの談。
チョコレートの、砂糖とミルクありあり……で飲んでいるケイオスにしてみれば、未知の境地だろう。
「慣れよ」
私はそっけなく言った。
「慣れ?」
「コーヒーのブラックを飲める俺かっけーって思って飲み続けてるとその内中毒になる。青春の基本」
私は大学で味を覚えたけど。
「飲んでみる?」
「いただきます」
言って一口。
「苦いです」
渋面。
それでも、なお可愛い。
元の造りが違うと、表情を変えても、魅力の別側面にしかならない。
ただイケ。
世の中は不公平だ。
私なんてモブ眼鏡なのに。
眼鏡のブリッジを押し上げる。
ケイオスにしろ量子ちゃんにしろ、可愛らしくて困る。
それはみゃっこや七糸にも通ずるけど。
比較対象としてマイナス補正で見られる……辛い。
「ところで劇場の場所は?」
「秋葉原です」
聖地だ。




