三つ巴6
「疲れた」
ロールスロイスで送迎されて、自身の部屋。
そのベッドに身を投げた。
もちろんジャージ姿で。
眼鏡にジャージときたら、もはや救いようが無い。
良いんだけど。
「義眼でも作りますか?」
ケイオスはそんな風に尋ねてきた。
「手術が怖い」
それが私の本音。
「寝て起きたら義眼に変わるようセッティングしますが?」
「眼鏡で十分」
モブ眼鏡。
それが私の象徴だ。
あんまり自慢も出来ないけど。
「ところでケイオス」
「何でしょう?」
「あまりみゃっこと七糸を刺激しないで」
「…………」
困惑。
そうではあった。
天井を見上げている。
言葉を探しているらしい。
そして、
「誰です?」
論理の破綻した答えが返ってきた。
「昼休みに一緒したでしょ?」
「僕は人を覚えるのが苦手なんです」
「は?」
私の困惑は正当だ。
何せ自分のことであるから。
「色々ありまして」
鼻先を掻くケイオス。
照れている。
というより恥ずかしがっている。
あるいは恐縮か。
「じゃあ私は何で覚えられてるの?」
「先生は想うだけで彩が付きますから」
別格です。
そう云われた。
「何を以て?」
「凜先生の魅力を以て」
躊躇が無かった。
本気で、
「そうだ」
と云っている。
意味不明の極致。
そうには違いない。
私はコンソールを呼び出して、作業をしながらケイオスに問う。
「私はケイオスに何かしましたか?」
「はい」
即答。
「先生のおかげで今の僕がいます」
真摯に言葉を紡がれる。
「…………」
カタカタ。
イメージキーボードを打鍵する。
「何をしたっけ?」
まったく心当たりが無い。
そういう意味では怖くもある。
いいんだけど。
カタカタ。
ベッドに寝転んだまま仮想キーを打鍵する。
「何をしていらっしゃるので?」
「打鍵」
普遍的な返答。
「プログラムを組んでいるんですか?」
「まぁ」
女学園の司書の範疇では無いけども。
「色々と厄介事を押し付けられんのよ」
その通りである。
基本的に地球の範囲に於いて、電子世界に遠距離は存在しない。
私の所属していた大学から頼まれごともする。
「ドクターカオスもそうでしょ?」
「まぁ」
カオス値を組んだシステムエンジニア。
であれば、その才能は、私と比べるべくもない。
天才の一角だ。
「社会に利用される」
と云う点において、天才は少し可哀想な立場ではあるけれど。
「ミスインタフェースもそうでしょう?」
「否定はしませんよ」
カタカタ。
打鍵。
「結局」
私は、
「ケイオスとみゃっこと七糸にアプローチされている……と?」
「誰?」
まぁそうなりますよね。
「私の何が良いんです?」
眼鏡を押し上げながら問答してみる。
「存在するだけで魅力的です」
その答えはどうだろう。
「外見?」
「いえ、感性ですね」
「…………」
あまり褒められた感性は持っていないんだけど。
「言って詮方なき……か」
嘆息して打鍵する私だった。




