百億円の恋7
とりあえず図書館の閉館と共に今日の仕事も一段落。
放課後は生徒の時間であるため教諭はとっとと去るに限る。
先述したけど妃ノ守女学園は全寮制。
寮部屋では寮監の目の届かない所で乙女の嬌声があがる。
まして新生プリンセスならば引く手数多だろう。
なにも私に拘る必要もない。
女生徒なら女生徒らしく。
相応の恋愛をすれば良いのだ。
とはいえ(例外はあれど)学内ランしかアクセスできないため、生徒には狭かろうけど。
そんなことを思いながら帰宅。
「たでぇまぁ」
誰も居ない空虚な部屋に言葉を投げかける。
「お帰りなさいませ」
声が掛かった。
アーティフィシャルインテリジェンスを雇った覚えは無い。
というか鼓膜の振るえる音だった。
「…………」
見れば玄関に裸エプロンのケイオスが傅いていた。
「?」
意味不明。
思考が白一色になる。
空白。
チ。
チ。
チ。
ポーン。
「失礼しました」
パタンと部屋の外側にいたまま扉を閉じる。
部屋ナンバーを見れば確かに私の賃貸している部屋だ。
「…………」
非常に頭の悪い白昼夢を見た気もする。
夏が近い証拠だろうか?
もう一度扉を開く。
「お帰りなさいませ」
裸エプロンのケイオスが傅いていた。
三つ指をついて。
まるで新妻の如く。
「何してるのでしょう?」
問わざるを得ない。
妃ノ守女学園は全寮制。
そして此処に居るケイオス。
矛盾する。
「寮部屋は?」
「引き払いました」
「で、何で此処に?」
「愛する人と一緒に居たいがためです」
「鍵はどうしたの?」
「必要ありませんし」
それもどうなんだろう。
「まさか同居するなんて言わないでしょう?」
「何故まさかなんですか?」
本気か。
ジョークにしては手が込みすぎている。
なおブルーハートの権力なら例外に例外を重ねても問題は無いだろう。
とはいえ……、
「押しかけ女房?」
「そうですね」
サックリ肯定されてしまった。
「御飯にしますか? お風呂にしますか? それとも僕?」
「御飯で」
「あぁん」
何故に悔しそうなのよ?
「まぁ物事には順序がありますし」
その納得の仕方も不穏当だけど。
「財閥の令嬢は料理が出来るの?」
「まぁそれなりに」
見れば微妙に部屋が広くなっていた。
「?」
首を傾げると、
「先生の部屋と隣の部屋の壁をぶち抜いて住居スペースを共有させました」
そんな答えが返ってくる。
全て計算尽くらしい。
こうまで先回りされると反抗する気力も失せる。
とりあえず私はジャージに着替えて寝っ転がる。
「御飯はもうすぐ出来ますので」
幼妻が軽やかに言ってくれる。
コレ……首じゃね?
『せかち』的に。
ブルーハート財閥ならもみ消すのは容易かろうけど。
「で」
何でケイオスが私の押しかけ女房の幼妻になっているのか。
因果関係がまるきりわからない。
自称モブ眼鏡だ。
なにか取り柄が有るわけでもなく。
恋人も居たことがないし言い寄られたこともない。
そんな私を慕ってくれる。
「いったい何者だ」
との懸念は尽きない。
そんなことを思いながらイメージインタフェースを展開する。
料理が用意されるなら量子変換は必要ない。
であればゲームをするより他になかった。
我ながら、
「何やってんだ」
って感じだけど。




