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夏美のぼっち事情3


「雉ちゃん?」


 なぁに?


「起きて?」


 嫌だ。


「挟んであげよっか?」


 ちきしょ~。


「起きればいいんでしょ起きれば」


 しぶしぶ覚醒。


 それから、


「くあ……」


 欠伸を一つ。


「ん~……」


 そして背伸び。


 さてさて、


「もう昼休み?」


「だよ」


 秋子がコクコクと頷く。


「よく寝てたね」


「問題ないしねぇ」


 少なくとも僕と秋子が並列化出来る時点でどちらかが授業を受けるだけで事足りる。


 一般的に脳情報の並列化は、


「危険だ」


 という理由で犯罪とされている。


 一般人にとって並列化は洗脳と同義だ。


 脳の量コンが出来てる時点でアイデンティティの確立なぞ無価値にすぎないと思うんだけど。


 個々であることに価値は無い。


「人類は並列化を繰り返して次の段階に進むべきだろう」


 というのが僕の持論。


 非同一性急先鋒派である。


 まぁ僕の場合はバックアップを持っているから無責任なことが言えるんだけどね。


「むにゅ~」


 閑話休題。


 僕はうつらうつらと頭部を右へ左へ傾ける。


「はい。雉ちゃん。コーヒー」


 量子変換で用意していたのだろう。


「カフェインはいらないよぅ」


「じゃあお茶でいい?」


「え?」


 あるの?


「ありますとも」


 さすがの秋子ニズム。


 水筒をポップして緑茶を湯のみにそそぐと、


「はい。雉ちゃん」


 と僕に渡してくる。


「いい子いい子」


 僕は湯のみを受け取った方の反対の手で秋子の頭を撫でた。


「えへへぇ……」


 はにかむ秋子。


 可愛い可愛い。


 そして、


「…………」


 ズズズとお茶をすする。


「どう?」


「美味しいよ」


「うん」


 クシャッと破顔する。


「ありがとう雉ちゃん」


 あら?


「何で僕にお礼?」


 逆じゃなぁい?


「だって私のお茶を美味しいって言ってくれたんだもん」


 さいでっか。


 照れ照れと秋子。


「私の作った物が雉ちゃんの血肉になってくれれば……それが私にとってとてもとても素敵なこと……かな?」


「秋子は可愛いなぁ」


 心底本音だ。


「ふえ……?」


 秋子がポカンとする。


 まぁ無理もない。


 基本的に、


「邪険にされても諦めない」


 が僕と秋子の不文律だ。


 僕側から好意を示すのは珍しい。


 だから、


「はぅ」


 キューピッドの矢に射抜かれたようにズキューンと胸部……大きな乳房を押さえて嬉しがり呻く秋子。


 大変だね。


 秋子もさ。


「…………」


 僕は飄々とお茶を飲む。


 その間にも秋子は量コンを操作して、


「うーん」


 と唸っていた。


「ちなみに今日の御飯は?」


「筍ご飯と赤だしだよ」


「美味しそうだね」


「美味しいって思ってくれるといいけど……」


 そして秋子は僕と自身の分の昼食を質量変換。


 僕の机に筍ご飯と赤だしが現れた。


 ホカホカで。


 量子情報に変換した時点で質量はその在り方を固定される。


 そのため作りたての料理を量子変換すれば、次に質量変換した際には作りたてのままポップされるというわけだ。


 そして僕と秋子は、


「いただきます」


 と一拍した。


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