この手に握る物4
「あう……量子ちゃんの……ライブ……」
クリスマスイブ当日。
瀬野四は冬休みに入っている。
昼食を食べた後、セカンドアースにログイン。
大気圏外のライブステージに繋がる宇宙エレベータ。
その灯台下暗しの喫茶店で俺と白雪はお茶をしていた。
ライブまではまだ少しだけ時間がある。
全席指定席かつ当日券もないため焦ってライブ会場に行く必要も無い。
天空舞台を易々とライブ会場に出来るあたり本当に量子の底力には舌を巻く。
俺は淡々とコーヒーを飲んだ。
「よくブラックで……飲めるね……」
「愛故だ」
「愛?」
「中学校の頃にブラックのコーヒーを楽しめるように誾千代に調教された」
「あう……」
だーかーらー。
「お前が負い目を持つ必要は無いって」
「でも誾千代さんは……きっとまだ……」
「だろうな」
手に取れるようだ。
学園祭での態度を見るに。
「けどま」
コーヒーを飲む。
「今俺が好きなのは白雪だから」
「あう……」
照れちょる照れちょる。
「いちいち俺の歯の浮く台詞に反応してたらキリが無いぞ?」
「あう……」
それから他愛ない話をして時間を潰す。
だいたい俺が白雪をからかって、白雪が真っ赤になるまでが常道。
そんなことをしているとライブ開始の時間が来た。
宇宙エレベータの改札でライブチケットを渡し、宇宙に上がる。
天空舞台は客で満杯だった。
その最前列の真ん中の席に座る。
普通音楽ライブは立ったまま楽しむ物で、実際に客のほとんどは立ったままペンライトを構えていたが、俺と白雪は椅子を用意して貰って安置した。
空間を区切ってナンバリングされており、格子のように箇所箇所が指定チケットの座標空間。
立つも座るも自由自在だ。
そしてライブが始まる。
豪奢なドレスを着てティアラを付けた大日本量子が現れる。
「「「「「わっ!」」」」」
とライブ会場がどよめいた。
「「「「「量子ちゃーん!」」」」」
背後でペンライトが光り狂う。
必死に振って量子に勇気を与える。
頑張れと。
期待していると。
楽しませてくれと。
今日という日を思い出にしたいと。
それは激励。
同時にプレッシャー。
が、量子はニッコリと慈愛の天使のように華やかに笑って、
「会場の皆! 今日は来てくれてありがとうっ! メリークリスマス!」
「「「「「メリークリスマス!」」」」」
最初からクライマックスだった。
「ふわぁ……」
とは白雪。
「量子ちゃん凄い……!」
「まぁ仕事は仕事できっちりこなすタイプだからな」
俺は座っている椅子の背もたれに体重を預けた。
ペンライトを振ったりもしない。
自由と民主を旨とする国際情勢においてライブ会場で盛り上がらない自由は保障されている。
ヤン提督みたいな理屈だが。
「じゃあじゃあ始めるよ! まずは何の曲にしよっか!」
会場からリクエストが幾つも飛ぶ。
それらをシステムが拾い上げて統計した。
結果、
「じゃ、最初は一番リクエストが多かったこの曲でいこう! 聞いてください! シュレディンガーに例えるな!」
会場が弾けた。
無数のペンライトが光り狂う。
そんな激励に応えるように華麗かつ情熱の歌声で量子はナンバーを歌っていく。
歌を唄う度に嫌が応にも会場の熱気は上昇する。
皆量子が大好き。
「さすがにプロだな」
かくいう俺も座ってはいるものの、足でタップを踏んでいた。
二時間半歌とトークで会場を盛り上げ、気づけばライブは終焉に向かっていた。
「そろそろ時間かな?」
「「「「「え~っ!」」」」」
不満そうな客の声。
まぁこれもお約束。
「大丈夫! 今日のライブは終わるけど、皆が応援してくれる限り何度でも何度でも私はライブを開くから! だから終わりの始まりは双葉の芽! 水を与える限り何度でも巨木に成り代わる! 寂しさは嬉しさの余韻! ライブを楽しんでくれたことの逆説的証明だから、その気持ちを尊いと思ってくれれば、それが私の望むところ!」
また盛り上がる客たち。
「じゃあラストナンバーだよ! 今日のための新曲! 箱の中へのラブレター!」
「「「「「わっ!」」」」」
そして演奏が流れ歌い出す量子。
「あなたはいつも箱の中。私が愛を綴ったら、あなたはいつも応えてくれる。アイラブユーにミートゥーみたいな。きっと素敵な人なんだ。箱の中のあなたの心。言葉をくれる文字の羅列。いつもいつも救われてる。顔が見たいな。声聞きたいな。それでもあなたは文字ばかり。箱は空かずに文字ばかり。『こんにちは!』って叫んで見れば『ニーハオ』なんて返ってきたり。愛嬌のあるジョークだね」
誰だ。
この歌詞考えたのは……。
俺が心でツッコんでいる間にもラストナンバーは最高潮の盛り上がりを見せた。




