この手に握る物2
「お願い! バッハちゃん!」
スノーがそう云うとバッハちゃん……サモンモンスター《バハムート》がドラゴンブレスを吐いた。
それは群れる雑魚どもを一撃で消失せしめ、代わりに俺とスノーの経験値ががんがん上がっていく。
推奨レベル二百のクエスト。
雑魚をサモナーのスノーが蹴散らして、ボスはシリョーがとどめを刺す。
グルを組んでいるので俺にもがっぽり経験値が入る。
結果。
「限界突破ですか?」
スノーが言う。
「ああ」
と俺。
レベルは百刻みで限界突破のアイテムを使うことでレベル上限を上げられる。
オドプレイヤーの上級者の証だ。
「ふぅん?」
というスノーのレベルは八十後半。
よくもまぁ育ったモノである。
まぁ九割九分はバッハちゃんのおかげだが。
「雷遁ちゃんが一番足手纏いだね」
シリョーがケラケラと笑う。
「仕方ねえだろ」
いきなりバハムートを手に入れたサモナーと比べるな。
「ていうかここでこんなことしてていいのか?」
俺はシリョーに問う。
「クリスマスライブとか忙しいんじゃ……」
「最終調整以外は予定通り進行中」
「最終調整?」
「乙女の秘密」
ウィンクされるがときめきはしなかった。
「雷遁」
これはいつもの初心者村の喫茶店に居座っているソード。
俺たちもクエストを終えるとこの喫茶店に集まった。
コーヒーを飲みながら問われる。
「スノーと一緒にライブに行くのかい?」
「そりゃまぁクリスマスだからな。デートの一つくらいするだろ」
「だね」
「あう……ソードさん……」
「安心してくれスノーくん。君が負い目を持つ必要は無い」
「まったくだ」
ソードと俺とでスノーを発破する。
「でも……でも……」
「君は魅力的な……あー……MMOのタブーに触れるが……魅力的な女性だ。雷遁が惚れるのも無理なからぬ」
ちなみにスノーは男性アバターだ。
性別バレがタブーと言うことである。
もっとも誰も聞いてやしないだろうが。
「ソードちゃんも来る?」
シリョーが問うた。
「他者の恋愛は胸焼けがするよ。それが想い人の物ともなれば格別だ」
「だね」
らしからぬことを聞いた。
そうシリョーの瞳は語っていた。
ここで、
「ごめん」
と言わないあたりアーティフィシャルインテリジェンスにしては有機的だ。
何か理由があるのだろうか?
「さて、何をして無聊を慰めようか」
コーヒーを飲む。
金髪が風に揺れた。
エメラルドの瞳は何を思っているやら知れない。
「ていうか思ったんだがな」
俺もコーヒーを飲む。
ブラックだ。
「仮面割れたんだから男のフリする必要なくね?」
スノーは白髪白眼の美少年。
ソードは金髪碧眼の美少年。
ちなみに白雪は黒い長髪の大和撫子で、誾千代は銀髪白眼の美少女だ。
「別に此処で交合するわけでもないから性別に頓着する必要は無かろう」
理屈上はそうだが。
「それよりもう一暴れしてきたらどうだい?」
コーヒーを飲みながら。
「レベル限界突破の能力も試したいだろう?」
「そらまぁ」
「じゃ、サードヴェネチアエリアに行こう!」
シリョーが元気よく提案してきた。
「だいたいその程度か」
左右の腰に差した剣の柄をチョンチョンと叩く。
ライトニングとスライダー。
俺のお気に入りだ。
「ただなぁ」
「何か?」
「ニクシーにはピースブレイカーが……」
ピースブレイカー。
パイルバンカーを内蔵した巨大な盾だ。
シールドバンカーとも。
「まぁいいじゃん」
気安くシリョー。
お前はな。
ジト目でツッコミ。
この手の嫌がらせがシリョーに効いた試しはないが。
「バッハちゃんは活躍できますか?」
「無双できるな」
というかそういうゲームなんだが。
「ソードさんは何時も不参加だけどどうやってオドを楽しんでるの?」
「雷遁とお茶が出来れば私は満足なのさ」
すまし顔のソード。
「あう……」
だからお前が負い目を持つ必要は無いぞ。
悪いのは俺だ。




