この手に握る物1
冬のある日。
毎度毎度の保健室。
「彼氏が欲しいわ……」
ポツリと教諭は呟いた。
「そうですか」
完。
「終わらせないでよ」
教諭のジト目。
ええ~。
「だって面倒くさそうだしなぁ」
「それが目上に対する態度?」
「先に生まれただけで偉いのなら歴史の教科書は今までの死者を完全に網羅する必要がありますが?」
「可愛くない……」
「コーヒーは美味しいですよ」
「むぅ」
教諭はイメージキーボードを叩く手を止めて同じくコーヒーを飲む。
「あの……なんでそんな……話題を……?」
とは俺の彼女……地祇白雪。
「そうねぇ」
教諭は遠い目をした。
「もうすぐクリスマスだから……かな」
「教諭は仕事という恋人がいるじゃないですか」
「本当に神鳴くんは敬語になると憎らしいわね」
ジト目。
「地祇さんは?」
「あう……」
真っ赤になる白雪。
「言っとくけど校則違反はしないでね」
「善処します」
「…………」
ジト目。
「神鳴くんと地祇さんはデートでもするの? するんでしょうね。地祇さんの初々しい反応を見れば」
「大日本量子のクリスマスライブに行く予定だ」
コーヒーを飲む。
「結局どういう繋がり?」
「教えると検挙されてしまうので言えねえな」
ジト目。
嘆息。
「いいけどさ」
いいらしい。
「なんならセクサロイドをクリスマスにプレゼントしましょうか?」
「何で君は優しい声で傷口に塩を塗り込むのよ」
「善意で言ったんですが」
「君の敬語は信用できない」
はっはっは。
「先生は……お綺麗ですから……きっと……素敵な人が……待ってますよ……」
「……………………ありがと地祇ちゃん」
俺より白雪の方が残酷だった。
純真である分、反論も出来ず。
疲れた声で感謝を表明するしかない。
さすが俺の彼女。
「実際言い寄られたりしないのか?」
俺は不思議に首を傾げた。
「一応教諭も美人さんな気はするが……」
「ありがと。けど教師ともなるとスケジュールがね。色々と大人は大変なのよ」
「仕事が恋人じゃねえか」
「うん。その通りよ」
もはや反論する気にもならないらしかった。
「目指せ寿退職」
「どこかにお金持ちで顔が良くて体の相性が良い私にベタ惚れの草食系男子はいないものかしら?」
「せめて半分ほど妥協しろ」
「じゃあお金持ちで浮気を許してくれる男」
うわぁ。
「とりあえず金づるを確保して恋人は他に作る」
そう言ったも同然だ。
「そうすれば円満に寿退職できるんだけど」
「頑張れ」
他にかける言葉が見つからない。
コーヒーを飲む。
「白雪は寿退学してもいいぞ?」
白雪の頭を撫でながら俺が言うと、
「ううん……」
白雪は頬を染めてかぶりを振った。
「一緒の大学……行こ……?」
「可愛い!」
ヒシッと抱きしめてしまう。
「じゃあとりあえず受験勉強頑張れよ」
「うん……」
白雪ははにかんだ。
目眩。
可愛すぎです。
うちの白雪は。
「忍くんに……追いつくよ……」
「こっちが妥協しても良いがな」
「あう……」
照れ照れ。
「若いって良いわね……」
教諭のジト目。
「かけめぐる青春だ」
「家から一歩も出ない癖に」
「現代教育の敗北の証左ですね」
ニコッと笑ってやる。
「悪かったわよ」
教諭は白旗を揚げてコーヒーを飲んだ。




