近くて遠い距離4
昼過ぎ。
昼食をとった後、今度は誾千代とデート。
体育館で文芸部と演劇部の共同作業。
『ヴェローナ酔い』
の演劇を見ていた。
劇の内容はラブロマンス。
日本人の少年と少女がお家柄に阻まれて両想いなのに乖離する。
親の目を盗んではひっそりと愛を確かめ合う二人は、家の事情にうんざりして駆け落ち。
子ども故の純情さ。
幼くもひたむきな両想い。
そして少年は月に愛を誓う。
日本版のロミオとジュリエットだった。
当然少年少女に生きる術はなく。
生活保護も受けようがない。
貧困生活に喘ぎながら、それでも握った手を離そうとしない二人は神に祝福されて天に召される。
デッドエンドのハッピーエンド。
あまり心地よい結末では無かったが考えさせられもする。
特に隣に誾千代が座っているとな。
劇が終わってもしばし俺たちは座を離れなかった。
俺はどうでもいいのだが、
「…………」
誾千代が肩を震わせていたから。
思うところがあるらしい。
斟酌する俺でもないが。
そうこうしてボーッと座っていると、次は吹奏楽部の演奏が始まった。
一曲目はアメイジンググレイス。
第二のアメリカ国歌とも呼ばれる聖歌。
俺はボーッと聞いていた。
その右手を、隣に座っている誾千代の左手がギュッと握る。
「どうした?」
「忍は……」
「俺は?」
「私に想うところは無いのか?」
「無いならこうやってデートしてねえよ」
ソレは事実だ。
「誾千代は乙女として完成されてるしな」
「私は君を好きで良いのか?」
「俺に聞くな」
駄目だと言えば諦めるのか?
「うう……」
泣き呻く誾千代。
「私が……私なんかが……」
…………。
「君の何が好きなのかも定義できない私なんかが想ってもいいのか?」
「難しく考えすぎだ」
「でも君が欲しかった言葉を私は言えなかった」
「そらまぁそうだが」
否定の余地もない。
それを言えたのは俺の短い人生で一人だけ。
それも紙一重のタイミングだった。
もし時期がズレていれば、
「…………」
まぁそれはいいか。
「君が虐められても助けることも出来ない」
「中学の頃は救われたがな」
「君を想えばこそ」
「恐縮だ」
吹奏楽部が次の演奏をする。
アニメの名曲だ。
天使の命題。
ワッと客席が沸く。
まぁ誰もが知ってる懐メロではあるしな。
「残酷だ」
誾千代が吐き捨てた。
「俺がな」
「いや。私がだ」
「お前は純情なだけだ」
「つまり君を計算に入れず自分だけの理想論に浸っている証拠だろう」
「思い詰めるな」
「できないよ……」
だからお前は乙女として完璧なんだが。
「君はスノーをどうする?」
「まぁ色々あるわな」
「私は……」
「お前は?」
「どうすればいい?」
「好きにしろよ」
「優しいね君は」
「何処をどう聞いたら?」
「私が忍を想うことに異議を差し挟まないという宣言だろう?」
「そこまで偽悪的な意味じゃないが……」
よく見透かすよ。
本当に。
まぁそろそろ長い付き合いだから俺の業も把握は出来るのだろうが。
「…………」
ボソッと誾千代は何かを呟いた。
「何だって?」
「何もないよ」
「気になるだろ」
「乙女の独り言は日記帳と同じく他者に認識されるべきモノではないよ」
「詩的な感性は望むところだが……」
「うん。だから君は忍なんだね」
「どういう意味だ」
「秘密だ」
そしてクスッと笑う。
どうやら自己嫌悪の鎖は脱したらしい。
「ま、いいんだがな」
鼻先をカリカリと掻く俺だった。




