風邪を引く馬鹿2
「やーほー」
母親が部屋から消えると、今度は客がやってきた。
紫の髪の女の子。
ちなみにアバター。
「量子か」
一応何度か見ているアバターだ。
最近のお気に入りらしい。
お茶の間アイドル大日本量子その人である。
「馬鹿も風邪引くのね」
「ほっとけ」
「看病してあげよっか?」
「不定形存在に何が出来る」
「熱を計ったり」
「視界モニタに映ってる」
量コンの機能の一つだ。
普段は使わないのだが、こう云うときは便利。
リアルタイムで体温を見られる。
今は七度八分。
「じゃあお喋りしようよ」
「構わんがアイドルの仕事は良いのか?」
「ちょうど暇が出来たとこ」
「想い人の所に行け」
「学業中」
「イメージチャットくらいできるだろ」
「そのためだけに学内ネットに侵入するのもねぇ」
「年がら年中暇そうだなお前は」
「ちゃんと仕事はしてるよ。ブラック企業も真っ青なくらい」
「不老不病不死なら過重労働に縁は無いだろ」
「そ~だけど~」
不満そうな量子だった。
「じゃあゲームしよ?」
「何をする」
「一から三まで数えられてカウントダウンする。最後に一を言った方の負けっていうゲームは?」
「また古典的なもん引っ張り出してきたな」
「では先攻をどうぞ」
「参りました」
「あら? バレてる?」
「四の倍数を勝ち取る後攻が絶対勝つだろ」
「よく知ってるね。この遊びのキモ」
「まぁ数学は得意だからな」
「雉ちゃんみたい」
「似たようなもんだ」
「頭ぶっ壊れてる辺りとかね」
「おい」
本当にその雉ちゃんとやらが想い人なのか?
「頭が良い具合にシェイクされてる辺りちょっと魅力的かも」
「おてんこ加減は五十歩百歩だろ」
「あはは。違いない」
ケラケラと量子は笑う。
「それでパープーアイドルは犯罪抑止力に回らなくて良いのか?」
「今も検挙し続けてるよ?」
「どうしようもないな」
「失礼かも」
「お前じゃねえよ」
「じゃあ誰が?」
「検挙される側が」
「ま、どうしても犯罪に走る人間は根絶できないから」
「民衆は常にアッパラパーだな」
「全体論は視野を狭めるよ」
「例外が常に存在する時点でそれを例外と呼べるだろうか?」
「それについて結論を出せるほどまだ人類は成熟してないかも」
「地球史を一年に例えると……か」
「うん。この先人類が滅ばなかったらきっとその時は……」
「完全管理社会という死が待ってるな」
「あう」
「お前はその先兵か」
「そ~だけど~」
自覚はあるらしい。
「その内スカイネットと人類の戦争が起こるな」
「私は人間の味方」
「雉ちゃんとやらの味方だろ」
「雉ちゃんだって人間だよ」
「聞く限りでは大分外れてそうだがな」
「錬金術師が言う?」
「自覚はあるぞ」
「顧みはしないけどね」
「あんまり自分が好きじゃないからな」
「だから他人を好きじゃなくても平気なんだね」
「因子の一端だとは思ってるさ」
「宜しい」
なんだかな。
「で、私のグラビア飾った雑誌買ってくれた?」
「忘れた」
「友達甲斐がないなぁ」
「握手するか?」
「口頭証明とどう違うのよ?」
「どこも違わんが?」
「なんで忍ちゃんと友好築けたんだろ私……」
「哲学だな」
「心は常に形而上」
「精神は形而下だが?」
「だぁねぇ」
「本気で言ってないだろお前」
ジト目で睨むと、
「にゃはは」
すっとぼける量子。
「ままならないね」
「風邪なんて引くもんじゃねぇな」
そういう意味じゃないことは十分に承知で話題を逸らした。




