風邪を引く馬鹿1
「はい。あーん」
「あーん」
女性に御飯を食べさせて貰う。
まぁ俺も夢に見ないと言えば嘘になる。
…………。
相手が母親でなければな……。
「ぐず」
鼻をすする。
「はいティッシュ」
「ども」
ズビーと鼻をかむ。
「はい。あーん」
「あーん」
何故にこんな事に為っているかと言えば、風邪を引いたの一言に尽きる。
いやぁ、馬鹿でも風邪は引くんだな。
「忍ちゃん外に出ないから……」
「他人が嫌いだ」
「少しは運動しないと体力は落ちるばかりよ」
「家を出たら負けだと思ってる」
「カウンセラーを呼びましょう」
「養護教諭で十分だ」
「じゃあせめて部屋で運動してよ」
「VR世代に無茶を言う」
「お母さん心配なの」
「政府が手厚く保護してくれるだろ」
「何でそんなものを生まれ持って来ちゃったの?」
「前世が大層な悪人だったんだろうよ」
「むぅ」
まぁ言いたいことはわかる。
親としては、ほとんど部屋のベッドで寝っ転がって過ごしている子どもが心配にもなるわな。
アバター保健室登校。
オーバードライブオンライン。
だいたい俺が行なっている日中の活動がソレだ。
そしてどっちも意識をアバターに奪われるため、ほとんどベッドで寝っ転がっているのが現状。
そりゃ風邪の一つも引く。
すくなくともVR世代は馬鹿ほど風邪を引くと言うことだろう。
一応学校の登下校に徒歩が推奨されるのも、幼年期少年期における運動および体造りの大切さが前提だ。
雨が降ればランドアークに平然と頼るが。
で、絶賛引き籠り中の馬鹿が風邪を引いたのでおかんが卵粥を作って食べさせてくれていると……そういうわけ。
「せっかく可愛い顔に生んであげたんだから恋の一つもしてみなさいよ」
してるがな。
「ていうか可愛すぎだ」
「いいこと」
「親馬鹿補正の色眼鏡で見るな」
業が深いとはこのことだ。
「でもモテるでしょ?」
九割ほど気味悪がられるがな!
「誾千代ちゃんは?」
「別れたっつったろ」
「学園祭デートしたんでしょ?」
「…………」
より具体的に決別の機会になったとは言えなかった。
「せめて早朝の人の居ない時間にランニングくらいしない?」
「んー……まぁ……言いたいことは分かる」
「でしょう?」
「都合で言えば深夜の方が良いんだが」
「とりあえず体を動かしてくれさえすれば文句は言わないけど……」
「でも家を出たくないしな」
「引き籠り」
「委細承知」
「はぁ……」
「怒らないのか?」
「何で?」
「子どもを正すのも親の役目だろう」
「どうしてそう忍ちゃんは捻くれてるのよ」
そうか?
「親の姿勢を子が諭してどうするの」
「上から目線だったか?」
「全力でね」
「そらすまんかった」
「別に良いけど」
母親の嘆息。
「それに私が怒ったら言うこと聞くの?」
「ドメスティックバイオレンスに奔る」
「もやしっ子に負けるほどお母さんは弱くないわよ?」
「負けたら体罰として教育委員会に通報する」
「タチが悪いわね。あーん」
「あーん」
「さて、じゃあ着替えましょっか」
「一人で出来る」
「病人がナマ言わないの」
死語だぞソレ。
「いいから出て行ってくれ。これから織物を織るから」
「見るなのタブー?」
「錬金術の情報開示は重大な犯罪なんだよ」
「はいはい。じゃあ何かあったら呼んでね」
「何かあったらな」
「顔は可愛いのに心は可愛くないわね」
「世間ではそれを『いい性格』と言うんだよ。褒め言葉だろ」
「その洒落臭い喋り方は何処で覚えるのよ?」
「ネットに浸れば精神も摩耗するんでな」
「やっぱり量コン化に年齢規制をかけるべきだと思うけど……」
「子どもの頃から慣れないと置いていかれる時代です故」
「皮肉を言うときですます口調になるのも『いい性格』よね」
「恐悦至極」




