忍と誾千代の好きなとこ6
「懐かしかったなあの頃は」
コーヒーを飲みながら苦笑する俺。
「今でもペアリングは持ってるよ」
「俺も捨てるのは忍びないから保管してるがな」
「忍は変わらないね」
「おかげで絶賛引き籠り中って訳だ」
「あう」
カクンと首を脱力させる誾千代。
「忍の人間嫌いも深刻だね」
「元が元だしな」
「そういう卑屈さが自分を追いやっているんだよ」
知ってるさ。
「だが弱者は弱者なりの生き方がある」
「例えば?」
「社会に毒づいて不満たらたらに生きることとかな」
「ダメ人間」
「その通りですよ~」
コーヒーを飲む。
「なんで忍は私より白雪くんを選んだんだい?」
「初めてだったからな」
「何が?」
「俺を格好良いって言ってくれた女子が」
「っ」
そうだよ。
その通りだ。
誾千代が終ぞ言わなかった言葉。
男子である俺に向けて、
「可愛いから魅力的」
と矜持を傷つけてきた誾千代。
それなのに白雪は、
「格好良い」
と言ってくれた。
それも俺の精神性を。
こんなに嬉しいことが他にあろうか?
男として認めてくれている。
それは誾千代には無かった言の葉。
思いと想いが重くのしかかる。
だから惚れた。
吊り橋効果?
そうかもしれない。
けれども俺は底辺で白雪も底辺だ。
その辺りにも通ずる物はある。
完璧性を生まれたときから約束されたデザイナーチルドレンとはまた違った共通性。
イレギュラーであることの重みを分かち合える。
白雪はそんな女の子だ。
「わかんないよ!」
誾千代は激昂した。
「今でもわかんないよ!」
何が?
その答えはもう出てる。
「忍のどこが好きかなんて!」
その通りだ。
俺は誾千代のデザインに惚れて、誾千代は流されに流されて俺と恋人になった。
俺たちの関係はシュレディンガーの猫より不確かだ。
けれど理論展開で図面が引ける恋慕は存在しない。
何時だって不条理で。
何時だって予測不能で。
何時だって摩訶不思議だ。
「でも嫌なの! 心がグシャッてなるの! 他の女の子と忍が一緒に居ると悲しくなるの! 何で私じゃないの!」
血を吐くような想いなのだろう。
俺が他の女子と仲良くしている光景というのは。
でも……だからこそ……だ。
「お前は完璧すぎる」
「髪が綺麗だって言ってくれたじゃない!」
「言ったな」
「瞳が綺麗だって言ってくれたじゃない!」
「言ったな」
「顔の造りが丁寧で体型が黄金比だって……!」
「言ったさ」
「なら抱いてよ」
「無理なのは既に言った」
コーヒーを飲む。
「忍……!」
「何だ?」
「大好き!」
「光栄だ」
「愛してる!」
「恐縮だ」
「宇宙で一番!」
「大きく出たな」
「だから……見捨てないで……」
「無理な相談だ」
淡々とコーヒーを飲む。
「お前もそんな表情するんだな……」
完璧性がテーマのデザイナーチルドレンにしては珍しくボロボロの涙顔だった。
「好きだよ忍……」
「想うだけなら許してやるよ」
俺は切って捨てた。
ここでその気も無いのに優しい言葉をかけるほど俺は残酷じゃない。
未練は断つべき物だ。
「忍の……馬鹿……」
「委細承知」
アシストを使って誾千代の銀色の髪を撫でる。
誾千代が完璧を崩すのは何時だって俺を想っているときだ。
だから知ってる。
誾千代の想いとその重みを。
残酷なのは……それに応えられない俺だ。
全く以て反吐が出る。




