忍と誾千代の好きなとこ5
「だよねー!」
「ありえねー!」
「そういえば清花の話聞いたー?」
「大学生に告られたってー!」
「忍くんどう思う?」
「好きなら付き合えば良いし嫌なら断れば良いだろ」
「だよねー」
女子どもの会話におざなりに参加しながら俺は電子書籍を読む。
今日は蒼穹文庫の『人間失格』。
別段女子たちは俺のコミュニケーション能力には一切期待していない。
ただ、
「忍くんは私らの一員」
とクラスに牽制をかけるために保護して貰っている。
絶滅危惧種か俺は。
まぁ自殺も考えんではないが。
誾千代に強制されたブラックのコーヒーを飲む。
もう苦みにも慣れた頃合いだ。
ちなみに男子の視線は痛い。
自身らが撒いた種とはいえ学校のアイドル御剣誾千代が俺の恋人となればそりゃ不愉快な思いの一つもする。
「なんで彼奴なんかと」
そんな漏れ出た言葉は多数聞いた。
俺のせいではないのだが、生憎と憎しみを制御できるなら世界は平和で満ちている。
自身らのイジメが俺と誾千代のお付き合いの発端であることを早々に忘れて俺を敵視する男子の視線は不条理だが間違ってはいない。
スクールカーストの上位ほど幸福を享受すべきという絶対のルールにおいて俺はルール違反を犯した存在だ。
反感。
嫉妬。
憎悪。
これらは理論で動かない。
分かっているが二十四金のペアリングをしている俺と誾千代の仲を否定できようはずもない。
「御剣さんは忍くんの何処が好きなの?」
「可愛いところ」
喧嘩売ってんのか?
「忍くんは?」
「…………」
沈思黙考。
「髪が綺麗」
「他には?」
「瞳が魅力的」
「他には?」
「顔が美しいし体のラインも黄金比」
とりあえず思ったことを口にすると、
「…………」
珍しく饒舌な誾千代が口を閉じた。
瞳には悲哀が透けて見える。
気にはなったが人との会話も疲れるので俺は読書に戻った。
中略して放課後。
「忍くん……」
「何?」
「忍くんは本当に私が好きなのかい?」
別に否定してもいいがな。
「何でだ?」
「髪が綺麗って」
「綺麗だろ」
白銀を溶かして染め上げたような髪は宝石にすら勝る美しさだ。
「瞳が綺麗って」
「綺麗だろ」
真珠を想起させる圧倒的な白の双眸。
そに見つめられれば全ての男子が恋に落ちる。
「顔が整ってて体つきが良いって」
「何か間違ったことを言ったか?」
「言ってないけどね……」
誾千代は寂しげに笑った。
「不満があるならぶちまけろ。俺は人間嫌いだがお前だけは例外だ」
「髪が綺麗なのも瞳が綺麗なのも顔が整ってるのも体のラインが綺麗なのも全部デザイナーチルドレンの恩恵でしょ?」
「そうだな」
「私の本質には魅力は無いの?」
「正直なところ金をかけた甲斐は在るだろうと思っている」
「?」
「誾千代の両親は子どもの幸せを願ってありったけの金をかけて優秀なデザイナーチルドレンを造りだした。それが誾千代だろ」
「そうだけど……」
「正直別次元の存在だ」
「何が?」
「尊貌良し。スタイル良し。性格良し。運動良し。勉学良し。家事良し。小手先良し。カリスマ良し。大凡欠点が見つからん」
「っ!」
「人間として完成されている。だから一緒に居て息苦しくはある。感動が情熱を上回る。正直なところ人間として完璧なお前に負い目を抱かないと言えば嘘だ」
「私は……邪魔……?」
「形而上ではな」
嘘をつけない自分が憎らしい。
「う、ううう、ううううう」
ボロボロと誾千代は涙を流した。
「悪い奴だな俺は」
後頭部をガシガシと掻く。
「忍くんは……悪くない……」
「恋人としては落第点だ」
「好きだよ。忍くん。大好き」
「ありがとな」
感情高ぶって抱きついてきた誾千代の白銀の髪を俺は優しく撫でた。
本当に、
「クズだ俺は」
可愛い顔してやるもんだ。
昔話はコレでお終い。
時間を回帰させよう。




