学園のプリンス4
「ふぅ」
精神統一。
心頭滅却すれば。
一念天に。
断じて行なえば鬼神も。
正直アバターであろうと外界に出るのは億劫だ。
約束さえなければ却下した案件だろう。
が、こと誾千代に限っては義理を欠くわけにもいかない。
自身を客観的に見る。
黒いセーラー服を着てリボンで着飾った女子高生。
それ以下のモノではなかった。
嘆息。
ともあれゴッドアイシステムにのっかって広大な敷地を持つ女学園の門の前に自身のアバターを映す。
「うちの生徒ですか?」
門番役の女生徒が尋ねてきた。
まぁ女学園の制服着てりゃあそうも思われるだろう。
むしろ一部も疑われていないことに男としての矜持がいたく傷つけられた。
「俺はいったい何処に向かっているのだろう?」
何処にも何も学園の敷地内ではあるのだが、もっとこう……人生の指針的な意味で彷徨っている俺だった。
「来賓だ」
チケットを渡す。
「お客様ですね。チケットを拝見させて貰いま……っ!」
言葉の途中で絶句する女生徒。
「?」
と俺は首を傾げた。
「これ……本当ですか……?」
「偽造じゃないぞ?」
正真正銘誾千代から譲り受けたチケットだ。
データだが。
「見ればお綺麗なご尊顔をされていますね……!」
「照れる」
微塵も思ってないことを口にする。
「プリンセスのお客様とも為ればやはり……」
プリンセス?
「で? 入れるのか? 入れないのか?」
「あ、失礼しました。どうぞ中へ」
「感謝」
そうとだけ言って敷地に入る。
レンガを布かれたタイルを歩くが生憎立体映像だ。
足音もしないし、レンガを踏みしめる感覚も無い。
風や匂いはアシストで伝わってくるが、まぁこれは言わなくても良い類。
しかし女子制服ってのはスカスカしてるな。
気温は今無常に寝っ転がっている身体との齟齬を嫌って室温に設定してあるが、風の具合から冬の寒さが混じっているのは何となく察してのけた。
「誰かしらあの方……」
「あんなお綺麗な方……この学園にいらっしゃったかしら……」
「はぅぅぅお美しいですわ」
「お声をかけてみませんこと?」
キャイキャイと女学園の生徒が噂する。
……………………俺の事をな。
「もし」
と呼び止められた。
「何だ?」
足を止めることなく答え返す。
「どちらの方でしょう? 何年何組の生徒ですの?」
一応ゆっくり歩いてやる。
それに追ってきながら正体を確かめんとする女生徒二人。
「残念。外来だ。文化祭に呼ばれたんでね」
「この学園の生徒ではないんですの?」
「残念ながら俺は違う」
「一人称は俺なんですのね……」
「育ちが悪いからな」
飄々と言ってのける。
「なんなら一緒に回りません事。学園についてはちょっと明るいですわ」
「必要ない。案内役はチケットくれた奴に任せる予定だから」
「せめて一緒に回る権利くらい欲しいです」
「何故だ?」
「あなたがお美しいからですわ。それに他校の生徒でしょう?」
そうではあるが引き籠りのアバター保健室登校とはとても言えない。
「是非ともうちの学園に転校しませんこと? あなたならプリンセスになれますわ」
「興味ねぇな」
そもそも転校できん。
チケット拝見するだけなら悟られないが、本格的に転校する場合はパーソナルデータを閲覧される。
ちなみにバッチリ男として政府に登録されているため、照会されれば次の日の朝のニュースだ。
「せめてお名前だけでも……」
「神鳴忍だ」
「忍様と申しますの……」
男でも女でも通用する名前を付けた両親をドロップキックしたい気持ちだった。
「呼び捨ててくれて構わんぞ」
「いいえぇ。それは不敬というモノです」
「気にしないんだがなぁ」
「あなたはゴッホやルノワールの芸術に触れて平然と『絵の具の塊だろう』と言えますの?」
「…………」
「忍様も同じ事ですわ。私たちは目も耳も鼻も持っているのに一人一人が違います。無数の細胞で出来ているのに美醜の違いが如実に表れます。故に忍様はお美しいですわ」
さいか。
「どなたと待ち合わせを」
「答える義理はないな」
「是非ともお近づきに」
「距離的な意味でなら幾らでも近づいてくれ」
そうやってのらりくらり躱しながら誾千代の待っている場所まで歩くのだった。




