学園のプリンス2
「やぁ忍」
土曜の夜。
今度は誾千代が現れた。
「何だ?」
「用がなければ来ちゃダメかい?」
「明日の準備は?」
「今頃焦ってるなら失敗したも同然だろう」
それもそうか。
「お前のクラスは何をするんだ?」
「展示会」
「文化祭らしいな」
「素直につまらないって言えばいいじゃないか」
「つまらん」
「本気で云うあたりが忍らしいね」
くっくと誾千代は笑った。
「とりあえず茶でも飲もうか」
そう言って量子変換器の遠隔操作。
緑茶を湯飲みごと俺は手に持った。
誾千代は電子コーヒー。
飲む仕草すら優雅だった。
カチンと受け皿にカップを置いて一言。
「サボろうなどとは思っていまいね?」
「ギクリ」
「オノマトペを口にするほどかい?」
「だってよ~」
「それについては心配しなくて良い」
「何を以て」
「それを言うために訪問したんだよ」
そしてまたコーヒーを一口。
俺も緑茶を飲んだ。
「忍なら似合うから」
そしてデータの移送。
俺のキャパに送られてきたのはアバター用の衣装。
それを視覚化する。
黒いセーラー服だった。
「…………」
気分の温度(略して気温)が少し下がった。
「どういう意味だ?」
「そういう意味だが?」
「女装しろと」
「だね」
「誰が?」
「わかってるくせに」
……さもあらんが。
「学園でね……」
「学園で?」
「私を慕ってくれる同級生やお姉様が多いんだ」
「まぁ綺麗だしな」
「う……む……」
紅潮する誾千代。
こういうところは大変よろしい。
「コホン」
と咳払い。
「であるから恋人がいるからと断っている」
「待て」
「だから忍」
「だから待て」
「私の恋人になってくれ」
「今更になって蒸し返すか普通?」
「いや、誤魔化しではなく真実として私は忍の恋人になりたい」
「一回別れたのに?」
「別段復縁なぞ珍しくもなかろう」
「そりゃそうだが……」
湯飲みを傾けて緑茶を苦々しく飲む。
「この体を忍に差し上げよう」
「いらん」
「君もいっぱしの男だろう」
「この年で面倒事を背負いたくない」
「ふむ……」
「だいたいお前は何でそこまで俺に入れ込めるのよ?」
「乙女心に理屈はいるまい」
前もそんな感じだったよな。
「で、セーラー服を着て文化祭に出ろと?」
「ああ、明日はデートしようじゃないか」
「展示会で暇してるから、と」
「忍が好きだからに決まってるじゃないか」
「あー、はいはい」
「私は本気だよ?」
「知ってるからタチが悪いんだ」
「私の?」
「いや俺のだな」
「自虐する必要もあるまい」
「とは言ってもなぁ……」
乙女心を理解しない男は罪深いと本で読んだ。
湯飲みを傾ける。
さぁてどうしたもんか。
「悩むことはあるまい。好きなら好きで嫌いなら嫌いと言ってくれ」
「好きなところと嫌いなところが並行するのが人間だろ。ギャルゲーの好感度と現実の人間関係は違う」
それ故に他人を見限った俺なのだから。
「ちなみに私は?」
「好きが嫌いを圧倒しているのが現状だな」
「照れるね」
「さすがに金をかけただけはあるよ」
「まぁね」
その辺りは誾千代の問題だ。
「忍」
「何だ?」
「好きだよ」




