色々な想い2
「ほう。三倍速」
ソードが意外や意外と驚くフリをした。
こういう小芝居はコイツの十八番だ。
「やはり体験してみるのが一番良かったですね」
紅茶を飲みながらスノーが云う。
「素質が有るんじゃないか?」
「そうでしょうか?」
スノーに特別意識は無いらしい。
こちらを見やる。
「ま、VR適性はあるみたいだな」
そう言ってのける。
「やた」
スノーは額面通りに喜んだ。
「けれど十倍速を目指すのだろう?」
「それが理想ですね」
「まぁそういう意味では雷遁に出会ったのは幸運だろうけど」
「だろうなぁ」
俺は超過疾走システムの恩恵の最大値……十倍速を具現できるプレイヤーだ。
師匠としてこれ以上は無いだろう。
「君の都合は良いのかい?」
「別に限界突破する気も無いし付き合うくらいはするさ」
「それが君の良いところだ」
クスリとソードは笑った。
そして素知らぬ顔でコーヒーを飲む。
「…………」
特に反論しようともせず俺もコーヒーを飲む。
「そういうソードさんはレベル上げたりしないんですか?」
「私は雷遁とお茶が出来ればそれでいいのさ」
「仲が良いんですね」
「まぁね」
「BLですか?」
「まぁね」
「わお!」
喜ぶのかよ。
「もしかしてスノーは腐女子かい?」
「あ」
固まるスノー。
そらまぁそんな結論に至るわな。
「何で女子のアバターじゃ無いんだい?」
「いえ……まぁ……その……ナンパ対策として……」
「昨今じゃあまりそういうノリは珍しくはないけどさ」
コーヒーを一口。
「それでもネカマプレイしなくともセクハラ対策はされてるよ?」
「いやらしい視線までシャットアウト出来ますか?」
「それは……ないね……」
さすがに視線にまでケチを付けていたら運営の処理が追いつかない。
「だったらやはり男の格好の方が望ましいです」
「そういうことか」
そしてコーヒーを飲むソード。
ネカマプレイ自体は平然と行なわれているから珍しくもないが。
「とりあえず目指すは十倍速です」
気持ちは分かるがな。
「今の三倍以上速くなるって事だよな」
「うぐぅ」
呻くスノーだった。
「ま、慣れだよ」
いともあっさりソード。
「ソードさんも十倍速で?」
「まぁね」
「ふわぁ」
「自分器用なもんで」
パッと両手をヒマワリの様に開く。
肩の位置で。
「だから君が十倍速を身につけても不思議は無いよ」
「そう言って貰えると嬉しいです」
にゃははとスノーが笑った。
俺はコーヒーを飲む。
「なんならソードを師匠と仰げばどうだ?」
「面倒」
これはスノーではなくソードの声。
「それは俺も何だがな」
半眼で睨む。
が、これがまずかった。
「あの……迷惑……ですか……?」
スノーの声に怯えが透けて見えた。
「てい」
ピシャン。
「ああん」
以下略。
「何をされるので?」
「いや、落ち込んで見えたから喜ばしいことを……と」
「たしかに喜ばしいことですが……」
「なら重畳」
コーヒーを飲んで、
「迷惑なら最初に切り捨ててるから心配すんな」
「でもご面倒だと……」
「言葉の綾だ」
そういう問題でもないが。
「師匠を師事して良いんですね?」
「ドンとこい」
「あは」
ほころぶスノー。
それが少し気にくわない。
「てい」
ピシャン
「ああん」
以下略。