大日本量子登場6
「はいそこまで」
そんな声が聞こえた瞬間、男子生徒は意識を失って倒れ伏した。
現れたのは黒いセミロングツインテールの美少女。
ちなみに服装はセーラー服。
うちの制服だ。
「何してんの?」
俺は聞いた。
「電子犯罪を取り締まるのが私の役目だからね」
セーラー服のツインテール美少女……大日本量子はあっさりとそう言った。
「どうやって意識を奪ったんだ?」
「単に電子世界に強制ログインさせただけだよ。そういう権限も持ってるし」
「なるほど」
「ついでに警察署に送っといた。書類付きで」
「書類って……」
「こういう事件はわりかし多いからね。書類はコピペで作成できるのよん」
「うへぇ」
聞きたくなかった常識。
「えと……量子ちゃん……?」
ポツリと呟く白雪。
まさかトップアイドルがうちの様な凡百な学校に来るとは思えないのだろう。
思えないも何も此処に居るのだが。
「やほ。ええと……地祇白雪ちゃん」
今、一瞬の間でパーソナルデータを照会したろう?
「サインいる?」
「是非!」
ポンとマジックと色紙(どちらもデータ)を取り出してサラサラと器用にサインを書くと、
「はい」
と白雪にサインを渡す。
つくづくデータだが。
「忍ちゃんもいる?」
「ネトオクに出して良いならな」
「雉ちゃんと同じ事言ってる……」
不満そうだった。
知ったこっちゃないが。
「とりあえず助かった。ソレについては礼を言う」
「ま、ミスターは日本の大事な財産だからね」
「お前が言うな」
「そうは言うけどさぁ」
やんややんやと言い合っていると、
「え……?」
と白雪。
「忍くん……量子ちゃんと……知り合い……?」
「皮肉なことにな」
「一級電子犯罪予備軍だし」
得しているくせにどの口が……。
「すごいね……」
「すごくはない」
有名人と仲が良いくらいで付加価値がつくとは俺は一切思っていない。
「とりあえずパーフェクトコピー造らない?」
「六十過ぎたら考える」
サックリ断る。
「どういう……関係……?」
「面倒見て貰ってるだけ」
耳をほじりながら俺。
「まぁ国家機密に抵触するから深いことは言えないんだけどぶっちゃけ友達かな」
「友達が……国家機密なの……?」
「うむ!」
自信満々に道化を演じる量子。
真実に嘘を交えることで誤魔化す初歩的な交渉術だ。
「忍くんは……何者……?」
「日本庶民ですが?」
「ぷっ」
コラそこ……笑わない。
「で、そちらの白雪ちゃんは新しい彼女?」
「候補だ」
「相も変わらずえげつない」
いとも容易く行なわれるえげつない行為。
「で?」
と俺は俺の足下に倒れ伏している男子生徒の頭を蹴った。
「コイツの処分は?」
「少年院」
「なら不景気な面見なくて済むな」
「さすがにオーバーアシストを使って殺人未遂じゃね。言い訳の余地が無いにゃん」
「ご苦労なこった」
「ま、私には日常だから。今こうしている間にも三人ほど拘束してるし」
「一億人も居れば管理が大変だな」
「他人事の様に忍ちゃんが言いますか……」
「別段経済に打撃は与えてないだろ」
「やろうと思ったら?」
「やる」
「だから目が離せないんだよ」
「知らんがな」
「にゃはは。だろうけどさ」
快活に笑う。
「とりあえずこの子の処分はこっちに任せて。なんなら退学処分が下るはずだから今からなら安心して登校できるんじゃない?」
「いやぁ人間関係はこりごり」
「別に良いけどね。じゃ」
そして量子は消えていった。
残ったのは俺と白雪と昏倒している男子生徒。
男子生徒は担架で病院まで運ばれていった。
頭を強く打ったためだ。
量子が消えて白雪が一言。
「忍くん……何者……?」
「だから日本庶民」