大日本量子登場4
昼休みになった。
一時ログアウトして部屋で昼食をとる。
ついでにトイレとシャワーをこなしてまたログイン。
瀬野四の保健室に現れる。
「地祇さん! この通り!」
「嫌……」
「お願いします!」
「嫌……」
見ればアバターの白雪と実体の男子生徒がやりとりをしていた。
それから白雪は俺を見つけると、
「忍くん……!」
そう言って俺に近寄ってきた。
陰鬱としていた表情が花開く。
「おかえり……!」
「ただいま」
よしよしと頭を撫でる。
「ふわぁ……」
例えはアレだが懐いたワンコのようでもある。
「神鳴ぃ……っ」
そしてどす黒いオーラを放つ見知らぬ男子生徒。
とりあえず分かったことを羅列しよう。
a:白雪は俺が好き。
b:男子生徒は白雪に言い寄っていた。
c:そしてaの通りに白雪が俺に懐いた。
結論。
「俺に白雪が懐くのを男子生徒は嫉妬している」
QED。
「で、誰?」
俺は教諭に問うた。
「神鳴くんを虐めていた生徒」
さも平然と言ってくれる。
先生と呼ばない意趣返しだろうか?
「ああ、お前が……」
「この前も会っただろうが!」
「そうだっけ?」
首を傾げてしまう。
「お前ごときに地祇さんは相応しくない」
「知ってるよ」
「知ってないよぉ……」
白雪は不満そうだ。
とはいえ艶やかな黒いロングヘアーの大和撫子は俺にとっても高嶺の花だと思うのだが。
向こうがこっちに惚れてるのは知ってる。
俺も相当の美少年であることは自覚している。
もっとも中性的のラインを多少はみ出してはいるが。
多少というか思いっきり。
フルスロットル。
さて、
「で? どういう状況よ?」
「あの人嫌い……」
白雪は頑なだった。
とりあえず白雪を引きはがしてオブジェクトのソファに寝っ転がると、
「ヅッキー」
と教諭を呼ぶ。
「何?」
「コーヒー」
「先生って呼んで?」
「鬼灯教諭」
「あー、もうっ」
だが結局コーヒーは淹れてくれる。
根っからの善人だ。
「で、どういう状況よ?」
コーヒーを飲みながら教諭に事情を問う。
多分一番冷静で場を把握しているのが教諭だろうから。
「んーと……」
イメージキーボードを打鍵しながら教諭は言う。
「要するに地祇さんがナンパされて拒否してるってだけね」
「ほう」
寝っ転がったまま男子生徒を見やる。
「また無謀な」
「お前が言うな!」
「告白してフラれた腹いせに俺を虐めたんだろ? そりゃ嫌われて当然だな」
ここで漸う俺は男子生徒との邂逅を思い出していた。
「それがお前の贖罪だ」
「ぷっ」
吹き出してしまった。
「小さい男……」
白雪も呆れている。
「神鳴ぃ……!」
もはや前後不覚となるほど憤激している男子生徒。
結局名前知らないな。
興味も無いが。
「舐めてんじゃねえぞ!」
そう言って殴りかかってくる。
「次に問題を起こしたら退学よ」
イメージウィンドウから目を離さず鬼灯ちゃんがボソリと呟く。
その言葉で、
「……っ!」
ピタリと男子生徒の怒りの鉄拳は止まった。
さしもの男でも退学は嫌か。
ちなみに俺を虐めた件については反省文だったらしい。
一回目は恩赦が下ったとのこと。
この後で聞いた話だが。
「ちっ!」
足下にあったゴミ箱を蹴飛ばして男子生徒は保健室を出て行った。
それからへなへなと白雪が崩れ落ちる。
俺はソファに座ってコーヒーを飲みながら心配して見せた。
「怖かった……」
そうとだけ。
まぁ乙女にしてみれば不良男子の性欲と憤怒は嫌悪の対象だろう。
「頑張ったな」
「あは」
俺が褒めると白雪は笑った。
やっぱり乙女は笑っている方が良い。