大日本量子登場1
朝起きた。
意識は取り戻したが無性に眠かった。
「あー……」
とりあえずコーヒー。
ということでコーヒーを量子変換で手に入れる。
ズズと飲む。
うん。
誾千代が淹れた方が数倍美味い。
あくまで俺視点で、だが。
今日のニュースを見て、天気を見る。
ニュースは大日本量子が席巻していた。
ニューシングルを出すらしい。
知ったこっちゃなかったが。
「頑張るな」
そうも思う。
色々と面倒を抱えているのは知っている。
「その一人が何言ってんだ」
って感じでもあるが。
コーヒーを飲む。
ニュースのイメージウィンドウを閉じる。
天気は雨。
もっとも引き籠りにはあまり関係の無い案件でもある。
外に出ないのだから。
わっはっは。
参ったかこのやろー。
……虚しい。
カフェインで目覚まし。
ソレが終わると朝食だ。
これも量子変換。
引き籠りに優しい時代である。
エネルギーは無尽蔵。
そして世界特許を取っている日本は安定している。
日本万歳。
そんなわけでしとしとと降る雨の音を聞きながら俺は朝食を取った。
もむもむと。
終わるとまたコーヒー。
だいたいシャッキリしてきたな。
だるだる~。
部屋を出て洗面台で朝の歯磨き。
後にベッドにダイブ。
「リンクスタート」
俺は意識をアバターへと移した。
場所はセカンドアース。
その瀬野四。
セカンドアースでも雨は降っていた。
別に構いはしないが。
俺のアバターは白髪赤眼の美少年。
アバター登校なら当人以外のアバターを使ってはいけないが、セカンドアースはその辺開放的だ。
俺は図書館で本を読むことにした。
別段その気になれば大英図書館でもケンブリッジ大学の図書館でも行けはするのだが、人が多いのは望む所じゃない。
そんなわけで自校の図書館である。
人がいないわけじゃない。
ちらほらとアバターは見かける。
学校の生徒か。
あるいはオートインテリジェンスか。
それはわからないんだが。
「さて、何を読む?」
難題だ。
本は腐るほど有る。
基本的に俺は娯楽小説を好む。
とは言っても別段ソレばっかりというわけでもないが。
そんなことを思いつつしばし図書館を回る。
どれもピンとこなかったため、
「仕方ない」
最終手段。
新聞に手をかけた。
ニュースと同じく量子のことが載っていた。
「しっかし……」
何処に行っても量子だな。
まぁ有り得ない話ではない。
基本的にお茶の間(死語)には完全に量子は浸透している。
毎日毎日テレビ(これも死語)に出れば、そりゃ国民的アイドルにも為る。
概ねにおいて情報量が他の電子アイドルと桁が違う。
そもそもにして電子犯罪の抑止力と云うことも大きい。
要するに日本中を監視しているのだ。
電子犯罪。
何もソレは電子世界だけを指す犯罪でも無い。
現実世界でも起こりうる。
ネットマネーの不正。
注入式電子ドラッグ。
オーバーアシストによる害的行為。
ことほど左様に大変なお仕事である。
やる奴も捕まえる奴も。
スパ量コンによって賄ってはいるが、犯罪も根深く捜査には労力がいるとか。
「主にコンピュータの冷却だろ」
などと俺などは思うが、実際問題どれだけアーティフィシャルインテリジェンスが優れていようとコンピュータのスペックは越えられないのである。
「よくやるよな」
新聞を読みながら俺がそう呟くと、
「あらそ。ありがと」
そんな声が聞こえた。
「…………」
ギクリとしてしまう。
声のした方に視線をやりたくなかった。
雨がシトシトと降っている。
いっそ俺の記憶も洗い流せばいいのに。
何となく益体も無いことを願ってしまった。