オドにおいて6
「さて、面倒なことになったね」
セカンドアース。
その御剣邸。
「誰のせいだ誰の」
「おや、私とでも?」
「少なくとも俺じゃねーよ」
「待ち合わせ場所に連れてきておきながら?」
「撒くのも面倒でな」
「努力を怠った忍が悪い」
「そうなるか?」
「結構Sの性質持ってるし」
「持ってねえよ」
「お預けは得意だろう?」
「ぐ……」
言葉を詰まらせると、
「はっはっは」
カラカラと爽やかに笑う。
精一杯嬉しそうに。
こう云うところは誾千代の長所の一つだ。
笑いたい時に笑えて、泣きたい時に泣ける。
それは年を数えるごとに捨てていく衝動だ。
けれど完璧の誾千代はそれさえ再現してのけるのだった。
俺にはコンプレックスを疼かせる項目だが。
「はい。コーヒー」
「どうも」
頷いて受け取る。
別段ポップも出来るのだが誾千代は(データ上とはいえ)手ずから入れることを好むタチだった。
「…………」
乱数値まで計算された電子コーヒー。
誾千代の擁する味がした。
「スノーくんか。面白そうな子じゃないか」
「ただの変態だ」
「あの鞭で指導すればお互い幸せに成れるんじゃないか?」
「一方通行だろ」
「与える幸せもある」
「よくまぁ素面でそんな言葉を言えるな」
「言葉は大事に使うべきさ」
すまし顔で誾千代はコーヒーを飲んだ。
「鞭を取り出す必要はあったか?」
「コミュニケーションが取りやすいだろ?」
白々しい。
「面白がってるだけだろ」
「そうとも言うね」
特に気後れ無く誾千代は言う。
俺としては面白くない
「お前だって適性あるんだから本気で遊べるはずだろ?」
「生憎乙女なもので。剣や銃や戦いにロマンは見出せないんだよ」
誰が乙女?
よっぽどそう言ってやりたかった。
もっとも誾千代はしらばっくれるだろうが。
「私にしてみればオドは君との語らいの場だよ」
「わかっちゃいるんだが」
惜しい。
それも事実だ。
「ま、私の話はいいだろう」
「次はどちらへ?」
「白雪くんとはどうだい?」
「まだどうも」
「可愛い子じゃないか」
「それをお前が言うか?」
「む……」
赤面する誾千代。
なるほど。
乙女であることは認めよう。
「コホン。告白からの進展度は?」
「二歩歩いて二歩下がる」
「何がいけないんだい?」
「お前が調子に乗るから言わない」
「嬉しいことを言ってくれるねアミーゴ」
そう言って誾千代ははにかんだ。
「……っ」
心奪われる俺。
相も変わらず……完璧な御仁だ。
さて、どうしたものかな?
コーヒーを飲む。
「お前さ」
「何だい?」
「モテるよな?」
「皮肉なことにね」
何を言いたいかは分かるが無視する。
「どんな気分だ?」
「慣れると何も感じなくなるよ」
「なるほどな」
「デザイナーチルドレンなら誰もが通る道さ」
「さいでっか」
俺には関係のない話だな。
うちは自然出産です故。
「こっちに幻想を持つのは勝手だが……」
「それをぶつけられるのは困ると?」
「まさに」
すまし顔でコーヒーを飲む誾千代。
「まぁ親が子を選べる時代だけど逆は実現しそうにないね」
「残念無念だな」
「そう云う意味では忍が羨ましいよ」
「妬ましくも?」
「事実としてはあるかな?」