オドにおいて4
そんなわけで今日は帰宅する。
それも一瞬で。
実際の体が家に在るのだからアバターからログアウトするだけだ。
パチッと目を覚ます。
とりあえず簡素な部屋を見て取った。
基本的に娯楽はヴァーチャルリアリティにあるため、部屋は最低限のモノしか置かれていない。
さて、
「どうすっかね」
俺は量子変換器で茶を購入すると、湯飲みに注いで飲む。
「ほ」
そんな吐息。
ピコンと電子音が鳴った。
視界にパネルが映る。
思念チャットの合否だ。
相手は、
「誾千代か」
その通りだった。
許可を下す。
「やっほ」
と誾千代の声が脳に響いた。
「何か用か?」
「今日はオドはプレイするのかい?」
「そのつもりだ」
「では私は初心者の村でお茶をしているよ」
「まったりしていろ」
「忍は来てくれないのかい?」
「…………」
思わず黙り込むと、
「行きたいのと拒絶したいのが半々と云ったところか」
思念だけで苦笑してみせる誾千代だった。
だからこいつは~……。
「いいじゃないか」
何がよ?
「親しくしても構わないだろう?」
「…………」
「何かお困りでも?」
「ねぇよ」
それは確かだ。
「ならば良し、だ」
何がよ?
そう言いたかったが言わなかった。
決定的な言葉を吐かれるのが怖い。
少なくとも俺にはな。
「…………」
ズズと茶を飲む。
「そうだ」
と誾千代。
「夕食は食べたかい?」
そんな問い。
「まだだが」
「では私が作ろうか?」
「ほんにお前は……」
「嫁の様だろう?」
夢の様……じゃなくてか?
「で? メニューは?」
「グラタンなどどうだろう?」
「ああ。好物」
「知っているとも」
そらまぁなぁ。
「楽しみに待ってるさ」
「期待していてくれ」
失敗した時の落差なんて考えてもいないのだろう。
らしいと云えば誾千代らしいのだが。
「さて」
俺はその間、茶を飲んで本を読んでいた。
本と云っても電子本だが。
しばし活字に触れていると、
「出来たよ」
誾千代のアバターが現れた。
銀色の髪は輝かしく。
けれど白い瞳は静謐で。
息をすることさえ忘れそうになる完全性。
「ま、いつも通りか」
「何がだい?」
「お前は綺麗だなってな」
「ふむ。悪くないね」
「だろうよ」
そして俺は量子変換器からグラタンを取り出した。
テーブルに置いて座布団にあぐらをかき、
「いただきます」
と感謝する。
もむもむと食べると、
「どうだい?」
誾千代が聞いてくる。
「率直に言って美味い」
まぁ誾千代の作った料理で美味しくなかったことがないのだが。
「はは、光栄だね」
軽く笑う誾千代だが、俺には本気で喜んでいることが分かる。
こう云う時、ちょっと業を覚えてしまう。
特に気にすることでもない。
そう弁えてもいるのだが。
グラタンをもむもむ。
「食後の茶は何がいいかな?」
「コーヒー。ブラックで」
「らしいね」
やかましい。